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忍者
悪食の勲章(創設期)
(※セーフかアウトかといったらセフト、というやつかもしれません)


頭と腹に重みを感じて目を覚ました。

頭が痛い。
完全なる二日酔いだ。
しかも見知らぬ天井、そして傍らに男の気配……ワンナイトカーニヴァルをキメてしまったようである。
まずい、全然覚えていない。
相手は誰だ。
ちらと右を見て絶句。我らが里長が子どものように健やかな顔で眠っている。私の頭を両腕で抱えているのは彼だ。つまり私の腹を抱いている者がもう一人いるということになる。
左を見てさらに絶句。かの有名なうちは一族の頭領が眉間にしわを寄せ私の腹に顔をうずめて眠っている。


一文官にすぎない私にいったい何が起こったというのか。


昨日は里の体制についての会議があった。
私の一族は元来、身体を使うことは不得手であったが、物事の効率や法則性について考えることが得手であったため、組織体系や法律、教育体制をプロデュースすることとなっていた。事前に会議に参加する人々へ調査を行い、各々の要求や考えを集計、データ化し、最良とされる案を打ち出した。
しかしどんなに良いプレゼンをしても、少しずつ、人によって解らない部分というものは出てくる。

さて、述べ忘れていたが我が一族の頭領は頭領だけあってとても聡く、美しく、その反面びっくりするほど頭でっかちで横暴なところがあった。我々としては基礎的とも思えるような質問が飛び交い、踏み込んだ内容の話し合いに進めず、頭領は笑顔を保ったまま怒り狂っていた。私は右から三番目のあたりで控えていたが、ある者がすでに説明した内容のことを若干けんか腰で問うた瞬間、頭領がその者だけではなくその場の全員を見渡し顎を挙げ馬鹿にした目付きで叫んだ様を、生涯忘れないだろう。


「あなたがた、先ほどからそんなことばかり訊ねられて、私の説明を9割方理解されていないのですな。よくぞまあ、その程度の理解力でいままで生きてこられましたね。斯様な状態で里なんぞ成立すると本気でお思いなのか。死んでしまえばいい」


大暴動が起こった。

我々の武器は手足ではなく頭や舌なので、囲まれボコボコにされては敵わぬと、言いたいことを言ってすっきりした顔の頭領を担ぎ死に物狂いでその場を逃げ出した。
のち、控えていた部下一同で焼肉屋に集まり、震えながら今後の対策を練ったのだった。
今後の対策というか、ほとんど他の一族のみなさんに対する恐怖と頭領に対する恨み節などである。

飲まずにやっていられるか、というやつである。

次、気が付いた時がこれだとは、ゆめゆめ思わなかったのである。
私は震えている。まだ全裸だしね。

まあ、待たれよ。

情報が足りていないから混乱しているのだ。
先ほどの相手確認も、おそろしすぎて一瞬だった。嫌だけれども再確認の必要がある。勘違いかもしれない。
……などと未だ痛み止まぬ頭で、今度は左下腹部から確認しようと、目をやる。
目が合う。


『……………待ってください、落ち着きましょう、違うんです、きっと違うんですよ、そうじゃあないんです、ほら、だって……ねえ?』

「……そうか………そうか?何がだ……待て、わかった。……?わからん。待て、落ち着け……ん?なんだ?ここは何処だ?」


お互いが己と相手をなだめながら、改めて状況確認をするが新たな情報は混乱を増させるばかりだ。
目覚めたうちはさんは表情には全く出ていないが、身体を起こしておのれを見下ろし小さく

「裸だ…」

と呟いた掠れ声を聞く限り、彼もまた二日酔いであり、どうしてこんなことになっているのか覚えていないようだ。
また目が合う。


「……俺は、」


そこまで言ってから、私の背後、つまり火影殿に気が付き愕然とした顔をして、言葉を続ける。


「俺たちは、……お前、俺たち二人の相手を…?」

『……覚えていないのですか』

「……覚えていない…」

『私も覚えていません…ので、ほらだから、……お酒、たくさん飲んだじゃあありませんか』

「飲んだ…」

『飲むと楽しい気持ちになって、血行が良くなって、それで脱いじゃっただけかもしれませんよ』

「そうか……待て、俺は柱間と飲んではいたが、お前なんぞしらん……いや、この状況は申し訳ないとは思っている……そういえばお前も裸だぞ……大丈夫なのか……服を着たほうがいいんじゃあないか……服は何処だ……コレか……?」

『違います……男物ではありませんか……』

「俺の物でも柱間の物でもないぞ……誰の服だ……もうなんでもいいだろ……羽織っておけ」

『嫌だ……知らない人の服なんて』

「わがままをいうな」


もだもだ揉みあい騒いでいると、おとなしく眠りこけていた火影殿がうるさそうに呻く。


「うるさいぞ……まだ夜明け前ではないか……うっ、頭痛い……」


辛そうに目を開け我々を見て、自分を顧みて、アッチャ〜というような顔をして、


「すまん!覚えていない!」


と潔く言った。


『まあまあ、先ほども話していたのですがね、ただ酔って脱いだだけかもしれないではありませんか。全員何も覚えていないのですから。何事も悪いように考えてはいけませんよ』


客観的に考えれば、いやどう考えても状況はクロだが、とりあえず一度落ち着いてから、後日話を進める必要があるという結論が私の中では出ている。
場を収めるために乾いた笑いを吐きながら前向きなことを言ったというのに、我らが火影殿はなかなかどうして、物事をうやむやにはさせてくれない御仁のようだ。


「しかし、俺が唯一覚えていることと言えば、」




悪食勲章


「気持ち良かったということだけぞ!」


視界の端で、うちはさんが無言で天を仰いでいる。






(ダックさんへ)



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