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オーロラ食堂(イタチ)

御国の仕事でミスをして追われる身となった私は、こなくそ、いっそのこと!と己の持ちうるすべての技術と知識と魔法を駆使して世界を超えることに成功した。

たどり着いたこの世界は、私が居た世界と比べて、文化の発展状態が若干遅れているようではあるが、魔法に似た力があり、それを武として戦っているようであった。
しかしどんなに情勢が不安定な世界も国も、生き物は生きている限り腹が減る。
私は料理の腕に自信があったため、この世界では小さな食堂を開くこととした。
この世界の食生活を調べ、それに私の世界の料理をアレンジし、最後にほんの少しの魔法をかける。

計画通り、大盛況だ。

何と幸せな日々!
邪魔になった要人を世界から消す術式や邪魔になった敵国を世界から消す術式や邪魔になった敵対世界を消す術式を考えることも無く、腹の減った人々を満たすために料理を作り、幸せになる呪文を唱える生活!
盛況ぶりと比例して質の良い材料を得、質の良いものを提供できる!
過剰に竜や子どもの生き胆を採らずに、必要な分だけの家畜を捌けば良い!
何と牧歌的な日々!


『魔法って、本来こういう風に使うものなのだなあ、と私は思いながら使っているのですよ。誰かを傷つけたり謀ったり惑わしたりするために使っているわけではありませんよ』

「俺にその魔法とやらはいらない、と言ったはずです。ましてや“幸せだった過去を思い出す”など、余計なお世話」

『だってあなた、いつも難しそうな顔をしてらっしゃるから。お連れの魚っぽい顔の方も心配されていましたよ』

「あれが心配するのとあなたが心配するのとは違うことです。それに、あなたは惑わすつもりが無くとも、それに等しい状況に陥る場合がある……そこまで考えて使う必要があると、考えが及ばないのですか」

『……すみません』


静かに論理的に私の魔法の使い方を安易だと叱りつける彼は、数年前からひと月に一度ほどのペースで来店してくれるお尋ね者だ。
お尋ね者のくせに妙に堂々としているので冗談かと思ったが、“この顔にピンときたら!”の顔と同じなので本人に確認をしたら、その通り、とのこと。
常に同行している魚っぽい顔の人がその様子を見てノコギリっぽい武器でぶちのめされそうになったところをスマートに救われた時から、私は彼に夢中である。

通報はしていない。


『お詫びに焼き菓子はいかがですか』

「いただきます」


渡す際どさくさに紛れて手を握るとスパンッと良い音を立ててその手を叩かれた。


「おさわりはマネージャーを通してください」

「すみませんねぇ、うちの事務所、そういうことは暗殺イベントでないとやっていないので……」

『あっ、あっ、そのイベントいつやっていますか。どうすれば参加できますか。CD!?CDに券入ってますか!?』

「イタチさん、次のイベントまで時間おしてますから失礼しますねぇ〜」


詳細訊ねようとすると、いつも魚面のマネージャーに間に入られてしまう。
マネージャーに背中を押されて敷居をまたいで出ていく直前、彼は振り向き、


「そんなイベントでなくとも、また伺います。黒子さんのご飯はおいしいですから。
ごちそうさまでした」





食堂


『か、かっこいい―――!腕磨いてお待ちしていますゥ―――!!!』






(城山さんへ)





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