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忍者
老い木に花(マダラ)
(酸欠デイズ番外)

冗談のように思われるかもしれないが、買い物帰りにマンホールに落ちた。

まさかギャグ漫画でもあるまいに、マンホールに落ちる経験をするとは努々思わなんだ。
マンホールを開けっ放しにしていた排水工のお兄さんは悪くない。

荷物を持つ代わりに手を繋ぎたい、誕生日だから、誕生日なのに、

と公衆の面前で駄々をこね出した男から逃げた際、前を見ていなかった私が悪い。
ついでに元凶の野郎も悪い。
野郎が悪い。
一番悪い。
落ち続けながら呪詛を吐く。
それにしてもこのマンホール、ずいぶんと深い。
下水に飛び込む覚悟を、今に至るまで何度もしたが、底も見えなければ匂いもしない。
どちらが上でどちらが下なのかしらん。
まさにアリスインワンダーランド状態。

ではこの先に待ち受けるものとは?

途端、何かに帯が引っかかり宙ぶらりんとなる。
解ける帯、
不可抗力、
くるくる回りながら更に下へ下へ、
アチラが下か、
下、下に何か白いものが。
それが独りの老人だと気付いた頃にやっと落下と回転は止まり、逆さまのまま、彼と対面することとなる。


「あら、」

「―――…!」


相手も動揺しているようだが、こちらもかなり動揺している。動揺のあまり、普段であれば絶対にしないようなことをして相手を確認する。
まさか、自身の呪詛がここまでの効果を生むとは。
相手の頬を撫でて顔を近づけ、つい、まじまじと見てしまう。


「…ずいぶんと、老いましたのねえ、マダラさん…」


己を撫でる私の手に恐々と触れ、今度は実体を確かめるように頬に押し付け目を閉じ、深く息を吐く。
返答を待つが、うっすら開けた口からは、音らしきものは何も発せられない。
その様は、朽ちかけの大木。
数分のうちに変じたものでは無いことくらいは、解る。

彼にとって、久々の<私>なのだろう。

しかし申し訳ないことに、あまり長居はできないようで、吊るされた帯が上から引かれる。
流石の私も、相手が野郎とはいえ、老人の手を力いっぱい振り払うことはできない。良心的に。
上へ戻る前にできることは少ない。
曲芸師のような状態で何をしてもサマにはならないが、空いている手で、もう片方の頬に手を添える。


「あたたかくなさい。ここはどうにも、冷えますから」




老い木に花









(24/12/2013)
(Thanks 茜さん)

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