海賊
研ぎ過ぎた刄は脆くなる(鳥啼歌番外)
何だか今日は寝付けない。
ざわざわと心の中が波立ち厭に目が冴えてしまって致し方ないので、船内を徘徊していると、甲板で酒盛りをしている1.2.4番隊隊長方に捕まった。
不覚。
エースさんとサッチさんに挟まれて縮こまる。
勘弁してほしい。
今は軽口を返す余裕も無いのだ。
始めは平生の如く髪をもしゃりもしゃりと乱暴に撫で回したり、力一杯抱き締めたり、『胸揉ませろ!』などとトンチキなことを言っていてお二方も、渡されたグラスに口も付けず膝を抱えて俯いたままの私に困惑し出した。
「お、おい、どうしたんだよ黒子…何か言えよぅ」
「具合が悪いのか?熱でもあンのか?」
「ふざけすぎたよ…もう胸揉ませろとか言わねえよ…」
腫れ物割れ物にでも触れるかのように額に手をやったりとそわそわしている様子に、一寸ばかり申し訳なさを覚えたので
「大丈夫です。何でも無いのです、何でも無いのですが、何か変なのです」
と言ったのだが、要領を得ない台詞はお二方に更なる不安を与えただけであったようである。
要は夜中にむずかった子供のようなものだと、様子を見ていたマルコさんは判断したらしい。
子供は速やかに、“親父”の元へと運び込まれた。
*
そして今、私は船長室にてニューゲートさんと二人きりで向かい合っている。
夜の部屋にニューゲートさんと二人きり………素敵すぎるシチュエーション、楽しめる精神状態でないのが残念だ。
静かだけれど決して居心地が悪くはない空間に、ぽたりぽたりと点滴の落ちる音が響く。
それを聴いているだけで、何となく心の波が穏やかになってきた気さえする。
「それで黒子、どうかしたのか?」
「っう、あ、あの」
優しい声にしどろもどろになる。
ぼんやりとした不安・だなんてどこかの文豪のようなことを言ったら、呆れられてしまうかもしれない………なんて思いながら、とりあえず下を向いたままでは失礼だろうと顔を上げ、
目を合わせ、
………ぼんやりとした不安は明瞭とした不安となった。
鼻の奥がつんとする。
くる。
ソレに気がついて止めようとした時には、もう視界はかすんでしまっていた。
こういう時の涙は止めようにも止まらないもの。無理に止めようとすると息苦しくなって、しゃくりをあげてしまいそうになる。
突然泣き出すだなんて、本当に子供のようだ。
袖で涙を拭こうとすると、大きな手が、顔を包むようにして涙を拭ってくださった。
嗚呼、人の温度は落ち着くものである筈なのに不安はどんどん増すばかり。
その手にすがりつき声を殺して泣く私を、どうか許してください。
研ぎ過ぎた刄は
脆くなる
私は貴方たちが居なくなる日が恐ろしくて堪らなくなってしまったのです。
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20000リク
ししゃもさんへ
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