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海賊
白黒頭巾(鳥啼歌番外)

※童話パロ




昔々黒頭巾と呼ばれる娘が、森の西に楽しい仲間達と住んでいました。
名を黒子といいます。
彼女は厳しい自然や賊のような仲間達にもまれ、街の娘より少し目付きが悪く、街の男より遥かに強く逞しく育っていました。




昔々白頭巾と呼ばれる娘が、森の東にある街一番のお屋敷に使用人の人達と住んでいました。
名を白子といいます。
彼女は将来の為に不自由ないようにと日々様々なお稽古事をこなし、蝶よ花よと大切にあまり外に出さず育てられたので、少し世間知らずでした。




ある日、仲間の一人であるマルコが食事中の黒子に声をかけました。


「黒子、ちょっと頼みがあるんだが」

「あとにしてください今ちょっと…アアッ!サッチテメェそれは私の卵焼きだろォがァア」


食事とは即ち戦いですので、少し気をそらした隙におかずをとられてしまうのです。
しかしマルコの次の言葉で戦場はシンと静まりました。


「“親父”の所に使いを頼みてぇんだよい」


“親父”というのは、黒子達のような荒くれ者をまとめ、面倒を見てくれた人でした。
今は森にある湖の畔で隠居しているので、時々お酒やお酒やお酒などを届けていました。


「ずりぃ!俺も行きたい!」

と仲間の一人のエースが叫びましたが黒子は無視し、目を輝かせて、誇らしげに背筋を伸ばし

「喜んで!」

と応えました。
仲間達は皆、親父が大好きなのです。




ある日使用人の一人であるクザンが長い廊下をぽてぽてと歩く白子に声をかけました。


「白子ちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なあに?」

「ちょっとセンゴクさんのところまでお使いに行ってほしいのよ」


センゴクというのは、このお屋敷の元、主人で、白子の後見人でした。
今は森にある湖の畔で隠居しているので、時々本やお茶やお茶菓子などを届けていました。

実は白子の世間知らずっぷりを心配したセンゴクが、今回のお使いを彼女にさせるようにとのお手紙が届いたのです。









「わかった、まかせて!」

と元気よく応えた白子に白い頭巾を被せ、いつもより比較的軽い荷物を持たせて送り出したのが数分前のこと。
使用人頭である青雉、赤犬、黄猿の三人が口酸っぱく
“寄り道しない”
やら
“知らない人に着いていかない”
やら
“狼に気をつける”
やら言ったのに、白頭巾は彼方へふらふら此方へふらふら。
心配で白頭巾の背後100mの距離を保ちながら着いてきてしまった三人は気が気ではありません。

端から見て怪しいことこの上なかったお陰か、街のチンピラに絡まれたりもせず、森までやってくることは出来ましたが…

……………………がさり。

白頭巾の10m前、三人の110前の道脇のやぶから、黒い頭巾を被り大きな酒樽を一つ背負った娘が飛び出してきました。




黒頭巾は逃げていました。

親父の好きな銘柄の酒を一樽背負わされて送り出されてから暫くして、背後から何者かが着いてくる気配を察したからです。
森には時々とんだ阿呆が現れ、道行く人々の持ち物を奪って行くこともあると、マルコから注意されたのです。

その類いの輩に構ってはいられません。
大好きな親父が待っているのですから。
酒を。

そこで黒頭巾は道から外れて撒こうとしたのですが、これがなかなか手強い。
地の利はこちらにあるはずなのに、一定の距離を保って着いてくるのです。

得体の知れないもの相手に一時だけ集中してしまった黒頭巾は、住み慣れた森の西から、滅多に来ない森の東へと来てしまい…迷いました。
困りましたが、やはり背後の気配が気になるので、足を止めること無く目の前のやぶを突き破り、


○●

「こんにちは!」


育ちの良い白頭巾は突然現れた黒頭巾に一瞬驚きはしましたが、すぐに元気よく挨拶をしました。


「こんにちは」


挨拶は大切だと親父から教えられていた黒頭巾は、久々にみた自分以外の娘に一瞬驚きはしましたが、すぐに姿勢を正して軽く会釈をしながら挨拶を返しました。


「そんなところから出てきて、何をしているの?私はこれから湖畔までお使いにいくの!」

「そうなんだ、偉いね」


無邪気な白頭巾を眩しそうに見ながら、いつもより幾分か優しい口調で黒頭巾は応えます。


「私も湖畔に行くのだけれど、この辺のことはよくわからなくて…道に迷ってしまって…」


ここまで言って、自分が何者かに追われていたことを思い出しました。
周囲を探ると、自分達の背後100mあたりにうぞうぞとしている気配がするような。


それらは皆さんご察しの通り、白頭巾を生暖かく見守る使用人三人………そして、黒頭巾が心配・という名分で親父に会おうと目論み着いてきていた仲間たちでした。
黒頭巾を追う何者かは、仲間たちだったのです。

それなりに仲良くなったモノクロ頭巾たちとは違い、保護者組は馬が合わなかったようです。
モノクロ頭巾からは見えないように狭いやぶの中に身を潜めながらど突き合いが始まっています。
うぞうぞとはソレでした。


そんなこととは露知らず、黒頭巾は自分と行き合ったばかりに白頭巾も阿呆のターゲットになってしまったのでは、と申し訳なく思いました。
ここで二人が分かれてしまったら、阿呆はぽやぽやした白頭巾の方を狙うだろう、とも思いました。


「もしよかったら、一緒に湖まで行きませんか」

阿呆が何人いるのかはわかりませんが、一人でいるよりは襲い難かろうと黒頭巾は思ったのです。
それに10人くらいまでなら、黒頭巾も返り討ちにできる自信はありました。


「本当!?私もそうしてくれると、嬉しいです!一人はちょっと寂しくて」


はにかんで笑う白頭巾と黒頭巾は仲良くお使いを再開しましたが、保護者組はそのことに気づくことができなかったとか。



白黒頭巾

(湖で各々の“娘”を待つ二人との出来事は、また別のお話)






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20000リク
奈廏さんへ


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