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海賊
Father's DAY!(鳥啼歌番外)

「何やら皆さん、いそいそしているように見えるのですが…今日は何かあるのですか?」


朝、両手と頭に船員の洗濯物を器用に乗せた黒子に声を掛けられた。


「あぁ、今日は父の日だからだよい。」

「………………父の日、だと…?」




Father's DAY!





動揺のあまり持っていたカゴを取り落とし、目をガッと見開いて口許に手を当て何かをぶつぶつ呟く様子は気の毒というより寧ろ、怖い。
知らなかったのか。


「おい、洗濯物…「どうしましょうマルコさん」


とりあえず床に散らばった洗濯物をどうにかさせようとしたのだが、切羽つまったような声で名を呼ばれながら詰め寄られ、口をつぐんでしまう。

どうにかさせる処か、こいつ、洗濯物踏んでいやがる。


「私、ニューゲートさんに、何も準備していませんどうしましょう」

「…いや、父の日ってのは日頃の感謝の気持ちを伝える日だから…別に何かを贈らなくてもいいと思うが…というか黒子、お前、踏んでるソレ、サッチの下着…「適当なこと言ってんじゃねーぞてめー…」

「えっ」

「…いえ、すみません。混乱していてあらぬことを口走っています。
そうですよね、感謝の気持ちを…そうですよね」


アグレッシブなことを言われた気がしなくもないが、落ち着きを取り戻してきたようで何よりだ。

しかし平穏というものは長く続かないと相場が決まっている。


「あっ、オイ!マルコ!黒子!何やってんだ?………………何だ、この洗濯物…?」


他の奴等と同様に、いつもより若干浮かれながら近付いてくるエースに、嫌な予感しかしない。


「もう親父に父の日ヤツ、渡しに行ったか?」


開口一番爆弾投下だ。
黒子の喉から「ぐぎゅっ」とおかしな音がしていることに、エースはまだ気づかない。


「…いえ、ま、まだ…エースさんは小脇に抱えるその箱が…?」

「おう!俺の感謝の気持ちをカタチにしたもんだ」

「感謝の気持ちをカタチに…!」


ここでやっと黒子の様子がおかしいことに気づいたエースが、首を傾げながら俺を見る。

俺は黒子をちらりと見た後で、エースに視線を戻し、首を振った。

この間二秒。
エースは全てを悟った。



「…あー、いや、父の日って言っても感謝の気持ちの伝え方は人それぞれ「気休め言ってんじゃねーぞ」

「えっ」

「…いえ、すみません。動揺していて思ったことをそのまま口に出してしまっています」

「えっ」


さて、さらりと自分が問題発言をしたことにも気づかず、再び眉間にシワを寄せ出したコイツをどうすべきか。
大量に散らばった洗濯物の中に立つ雑用を挟んで隊長が相対しているというのは、絵面的にどうなのか。

………………先程から船員の視線が、やや痛い。

エースも同じようなことを感じていたのか、困ったように頭を掻いてから


「…大丈夫だ、俺“達”が相談くらいになら乗るから、とりあえずコレ、どうにかしようぜ」


と、とりあえずの解決案を提示するのはいいが、


「“達”?」

「そうですね、すみません。動揺してしまって、私…ああっ、サッチさんの下着が!
エースさんとマルコさんが相談に乗ってくださるとは、心強いです」

「………………。」


面倒なことになった。
小さくため息を吐くと、いつの間にやら隣に来ていたエースが、喉を鳴らしてくつくつと笑った。
全くもって笑えねぇ。

かかとで足を踏みつけてやった。

***


「とりあえず、毎年どんなものをお贈りしているのか伺いたいのですが」


場所を変え、食堂のテーブル席の向かいから筆記具と手帳を手にキリリとこちらを見据える黒子。
殺気立っている。


「やっぱり毎年、酒かなあ…自分が好きな酒を贈れば、一緒に飲めたりもするし…」

「意外と打算的ですね…。成程、そういうことまで考えて…」


それなりにちゃんと相談に乗っているエースの言葉を、頷きながら手帳に書き込む姿は真剣そのものだ。

親父関連以外に於いても、これくらい熱心であれば人間関係も広がるだろうに…そんなことを考えていると、今度は俺に話をふってくる。


「マルコさんは?」

「俺もいつもは酒だが、今年は一つ前の島で親父が気に入ったって言っていたつまみ類を」

「…!そういう買い物に行くときに誘ってくだされば良かったのに…!」


歯ぎしりしながらなじられても。

見かねたエースが


「あ、黒子お前、この間の島で結構イイ酒買ってたじゃねぇか。それでいいんじゃねェか」


と案を出すが


「もう開けちゃいましたよ…!」


即却下。
頭を抱えてうめき出す。


「あー…参ったなァ…この世界にも父の日があるなんて…不覚だった…」

「へぇ、お前の世界にもあるのか、父の日」


普段は話したがらない自分の世界のことを口に出すほど切羽つまっているらしい。
エースは興味深そうに、もっと違う話まで聞きたそうな顔をしているが、待て。


「お前の世界にも父の日があるなら、何を贈ればいいか解るんじゃねぇのかい?」

「好みというやつが違うでしょうよ…」


そうは言うが、全く何を贈ればいいか解らないよりは良い。


「まあ挙げてみろ、何を贈ってたりしてたんだよい?」

「…菓子折りとか…私が好きな菓子を贈れば一緒に食べられたりしますし…」

「お前もだいぶ打算的じゃねェか」


似た者同士だと思ったが、言ったら話がずれることは明白なので口には出さず先を促す。


「他には?」

「…肩たたき券、とか」


聞き慣れない単語が出てきた。


「何だ、それ」

「その券を渡してくれれば、いつでも肩のマッサージをしますよ・という券です」


私、結構上手なんですよ・と言う黒子に、エースは背を向け肩を差し出す。
黒子はおもむろに肩を揉む。


「あっ、本当だ上手い。その券、俺が欲しい。」

「まだ若いのに…凝っていますねお客さん…」

「それでいいじゃねぇかよい」


アイデアが良い。親父はきっと喜ぶ。
しかし本人はそうは思わないようだ。


「ニューゲートさん相手にそんな適当感溢れた真似ができますか!小学生じゃあるまいに!申し訳が無くなるわ!」

「ショウガクセイ…?」

「そうかなあ、結構イイと思うけどな…アッ、その肩甲骨をもっと…!」

「………………。」


浮かない顔のままエースの肩を揉み続け考え込んでしまった黒子に、本日何回目か解らないため息が出た。


***


夜、親父は隊長を部屋に集め、貰った酒で宴会を始めた。

「この酒は誰々から貰ったもんだ」

と言いながら、いつもより大切に味わうようにして飲む親父を見ていると、俺はこの人についてきて本当に良かったと思えるのだ。


普段より少人数ながらも決して盛り下がることはない、そんな居心地のよい雰囲気の中に、小さく控え目なノックが響いた。

時は日付が変わる五分前、一体誰かと扉に視線が集まる。


「夜分遅くにすみません、黒子です。明かりがついていたので…失礼してもよろしいでしょうか」

「アァ、構わねえよ。入れ」


静静と入ってきた黒子は隊長が揃っているのを見て一瞬ぎくりと頬を歪ませ身体を硬くしたが、意を決したように親父へと歩を進める。


「遅くなってすみません、あの、父の日、なので…」


しどろもどろで、もじもじとしている黒子を見る親父の目は優しい。

しかしそれを見ていられなくなる奴もいる。


「うじうじしてんなよ!結局どうしたんだお前」


エースが黒子の後ろから覆い被さる。
迷惑そうに振り払おうとした時に、懐からはらりと封筒が落ちた。

慌てて拾おうと身を屈めるが、反射神経の差でそれをエースに奪われる。
哀れ黒子。


「なんだ、お前結局…」

「返してくださいエースさん…!」

「いいじゃねぇか、相談に乗ってやったろ」

「それはそれ、これはこれ・ということわざが私の世界にはあります…!」

「ほれほれ」

「…!!!この酔っ払いが…!」


悪ノリして黒子には届かないように封筒を掲げるエースにため息が出る。
そのくらいにしておけ、と止めてやろうとしたがその前に黒子がエースの空いた鳩尾に迷うことなく肘鉄を入れた。
崩れ落ちるエース。


「ガッ…!黒子…てめえ…」

「じ、自業自得ですあほんだら…!」


封筒を奪い返して親父に向き直る。
両手に持って腰を深く折りながら


「いつも、ありがとうございます」


と言うコイツは、もうすっかり我が家の一員だと思うのは、俺だけではない筈だ。


なかなか感動的なシーンも足元でうめくエースで台無しだけどな。


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あきゅろす。
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