海賊
翼を授ける（ｴｰｽ）
（現ﾊﾟﾛ？）
カウントダウンを見届けてすぐ床に就き、夜明けと共に目を覚ました。
年越し夜更かしをした人々が寝入る頃、石油ストーブに火をつけて、井戸から水を汲み、お供えをし、おせちの用意をしてから先ほどの水でお茶を淹れて、家の前の一本道を遠く見つめる。
年越し前から待っている。
呪わしい上司からの年賀状をな。
野郎!仕事納めの際に
「この間出してもらった企画書のデータ、年賀状に貼って送ったからナ!」
などと言われ、手直しをしようにもソレが手元に来ない限り何もできない状態となってしまったのである。
他部署の同期に愚痴をこぼすも
「お茶目じゃん?」
「おかげで年末年始らしい休みを過ごせているじゃん?」
などと笑われるのみ。
野郎のアレはそういった、休みをゆっくり過ごさせるための気遣いというわけではない。こんな感じの出来事が週一で続いていく。ちょっとした工夫でみんなを楽しませることができる俺カッコイイ!病なのである。エンターテイメントの押しつけをされているこちらの身にもなってほしい。
おかげさまで、年明けの清々しい空気の中、去年を引きずってアンニュイな顔で外を眺め続ける。
ひたすらに時間が過ぎていく。
クソ!思い出したら腹が立ってきた。
栗きんとんでも食べようと立ち上がると、あちらに見えるは真っ赤なバイク。
来た!
肩掛けを羽織って外に駆け出す。
外は結構な雪が積もり、雪駄でも雪が入り込んでくる。長靴で出なかったことを後悔しながらも、ジャリジャリと滑り止めチェーンを鳴らしながらやってくるバイクに近づく。
「明けましておめでとうございます!」
こんなに寒いのに、元気いっぱい新年の挨拶をしてくる郵便屋さんは、鼻の頭を赤くして年賀状の束を差し出してきた。
『明けましておめでとうございます。ご苦労様です』
受け取り、その場で上司からの年賀状を確認する。
数年前まで所属していた会計部の札束数え技術がこんなところで役に立つとは思わなかった、などと思っているうちに三度確認したが野郎からの年賀状は渡された束の中には入っていなかった。
『ちくしょう！！！！！』
大音声で叫ぶと、それに驚いたのか、数メートル先に去っていた郵便屋さんのバイクが急ブレーキを踏み戻ってきてしまった。
「どうかしましたか!」
『いやっ、その……ウチ宛の年賀状はこれだけでしょうか』
わざわざ戻ってきてくれたので一応確認してもらっているが、おおよそ、野郎は年賀状を25日までに投函しなかったのだろう。
「ありませんね……」
案の定の返しに顔が引きつる。しかし郵便屋さんのせいではない。
『そうですよね、いえ、わざわざ戻ってきてくださったのにすみません。ありがとうございました……』
「……大切な方からの、年賀状だったんですか」
『えっ、いえいえ、そういうことでは』
「いいんです!わかりましたから!待っていた便りが来ねえってのは、つらいもんです……」
何か大きな勘違いをした郵便屋さんは悲しげな顔をして俯き、首を横に振っていたかと思うと、ハッとしたように目を見開いた。
「……俺、今日誕生日なんですよ」
『?!……お、おめでとうございます』
「ありがとうございます……なのに、ほら、この職種だと年末年始は地獄で、周辺もそれどころではないし、身内もただでさえ元日やら三が日で忙しいのに、家にいない俺の誕生日なんて忘れがちで……そういう悲しみが、心のどこかにあったような気がします……もしかしたら、それが仕事の障害になって、黒子さん宛の年賀状を何枚か忘れた可能性が……あるかも……すみません!!!」
『いやいやいやいや!』
すさまじい飛躍で自分に非があると謝罪してくるけれど、どう考えても彼のうっかりよりも上司のうっかりのほうが、可能性は高い。
だが待て。
そんなことは誰もがわかることではないか。昨今の年賀状の、住所配分は機械で行われていると聞く。よって、無いものは無いと、郵便屋さんならば分かりきっていることではないか。
彼はもしかして、「大切な人からの年賀状が無くガッカリ悲しむ私（仮）」に希望を持たせるために自分の非だと言っているのではなかろうか。
優しい!
なんて優しい郵便屋さん!
ささくれた心に優しさが沁みてしんどくなってきた。
申し訳なさすぎる。
『ちょっと待っていてくださいね……!』
しょんぼりしたままの郵便屋さんを留め、大急ぎで家の中に戻り、何か温かい飲み物でも、と思ったのだが、あいにくそのように気の利いたものは我が家には無かった。
仕方がない。
私の伝家の秘宝をおすそ分けすることとしよう。
『お待たせしました。気を遣わせてしまってごめんなさい……コレで、お仕事頑張ってください』
翼を授ける
（01/01/2015 HAPPYBIRTHDAY ACE!!）
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