海賊
BE MY HERO(エース)
ポートガス君は元気な男子高校生なので、身体能力的なレベルアップをすると放課後、披露をしに来てくれる。
ひと月前、
「黒子!大車輪ができるようになった!」
『すごいね』
二週間前、
「黒子!ダイビング前宙ができるようになった!」
『す、すごいね』
先ほど、
「黒子!後方宙返り1回ひねり切り返しができるようになった!」
『え?なんて!?』
凄まじい成長速度である。
ついていくのに一苦労どころではない。
披露場はもっぱら教室前の廊下であるため、失敗したら大変だというのに静止を振り切りスパッと決めてしまうものだから、格好良いといえば格好良いけれども、けれども、
「ポートガスに廊下で新体操技決めねぇように言えってぇー言ったよねーえ」
『いや…しかし黄猿先生…あの子は私が言ったところで…』
「言ったよォーねーぇええ?」
『だって…だって…』
内申に響いちゃうかもしれねえからねぇ〜なんつって踵を返し職員室へ戻って行ってしまう担任の背中に無表情で中指を立ててから私も戻る。
なぜ私が……私何も悪くないのに……
私にはどうしようもないことだというのに……
彼が私に自慢するたびになぜか私に厳しい眼が向けられ、なぜか私の内申点が削られていくのである。
恐ろしい。
なんて理不尽。
これが社会か……
女子高生に社会の恐ろしさを教えてくれる、それが学校なのである。
そんなモノローグはさておき、このままでは洒落にならないので本腰を入れてコトの元凶に注意をしなければならない。
しかし担任にも言ったが、彼は私が注意をしたくらいで行いを改めるような子ではない。
内申点?そんなちっちぇえこと!
そういう集団に属している。
よって、彼の技名ではないが、ちょっくらひねりを入れて言い聞かせる必要がある。
しかし私は一女子高生にすぎない……ひねりもくそも思いつかないのである。
『ポートガス君!』
「黒子!」
教室前では後方宙返り1回ひねり切り返しを決めたポートガス後輩を我がクラスメイトが囲み称賛を浴びせていた。
バカヤロウ共め。
そんなことをするからポートガス君も図に乗るのだ。
囲まれているポートガス君を呼ぶと、眩しい笑顔で人をかき分けやってきた。
「なあに」
『なあに、ではないよ……もう廊下ではやらないって、前の時にあんなにお願いをしたのに……』
「でも、黒子も先輩方もすげえ褒めてくれるし……できるようになったことは、すぐに黒子に見せてェんだよ……」
そう言うと、出た!大型犬フェイス!
これで絆される私ではないぞ!
『だめですだめです。何が駄目って、廊下でやるのが駄目です。廊下でやると、私が先生から呼び出しを食らうのよ』
「オヤジは良いって言ってたぜ」
『ニューゲート先生は階が違うでしょ!三年教室階は厳しい系が多いの!私の担任黄猿先生だもの』
「なにかされたのか。オヤジに相談するか」
担任の名を出した途端に真顔になる。
心配してくれているのか、それとも単に厳しい系の先生方が嫌いなのかは知るところでないが、以前その言葉に甘えた結果校舎がなぜか半壊したので、謹んでお断りしなければならない。
『そういうことではない……そういうことではないんだ……ええとね、ああ……そう、私に見せてくれるのであれば、こう、目立たないところで、ね』
「……ふたりで?」
『そうだね』
「目立たないところで、二人きりで?」
『……?そうだね……?』
瞬間、ぱっ、と表情を明るくして両手で手を握られる。
「わかった!」
BE MY HERO
何が?
(海さんへ)
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