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頂き物
学パロエース(ノウラさん)

よく 、授業が一緒になる男の子がいる。

同じ学科の子で、いつも90分間フルで机に突っ伏していて、少人数のゼミになってもそれが変わらなくて。
なのに、小テストとかレポートとかの成績は優秀なんだとか。


「エースくん、」


理不尽、ではないか。


「エースくん、起きて」
「んぁ…?」
「ほら、資料回ってきたから…」

ギリギリになって教室に駆け込んだら、ちょうどいい席がなくて。
たまたま空席だったエース君の隣に座った。

私が隣に座っても、始業のチャイムが鳴っても、教授が教室に入ってきても。
やっぱりエース君は突っ伏したままで、もう最初から寝るつもり、って感じ。

「どうしていつも寝てるの…?」

思わず口を突いた問い。
少しだけ、怒りも籠もり気味で。

「え…?」
「エース君いつも寝てるじゃない、私知ってるんだからね」

この授業にあの授業に…と。
私は、自分の知り得る限りでエース君が居眠りしている授業の名前を片っ端から上げていった。

するとエース君はぽかん、と目と口を見開いて(エース君の寝ぼけてる以外の顔を初めて見た)、しばらくしてから「そっかぁ」と頬杖を突く。

「お前、」
「ん?」

授業内容は数分前から聞き逃してついていけなくなっている。
いいよね、この際だからエース君と話しちゃっても。

「お前、そんなに俺のこと見てくれてんの?」


ぽかん、と。


今度は私が目と口を開けて、一瞬の後にかっと顔が熱くなる。

なんと返せばいいか分からずに口をぱくぱくさせていると、エース君は至極愉快そうな顔をして喉の奥で笑った。

「すっげえ顔、」
「わ…っ悪かったわね!」
「別に悪いとは言ってねえよ、むしろ可愛い」

また、開いた口が塞がらない。

にや、って。
人懐っこい笑顔のままで、エース君はシャーペンを回しながら身体を正面へ向き直した。

「俺さ、かなりバイト掛け持ちしてんだよ」

回していたシャーペンを持ち直し、申し分程度に一枚だけ出してあるルーズリーフへ滑らせる。

「バイト…?」
「そ。弟と二人暮らしなんだけど、これがまたごく潰しでさぁ…」

「いや、可愛い弟のためなら何でも出来るけど」とか何とか言っちゃって。
でも、そう言ったときのエース君はすごく優しい目をしていた。

お兄ちゃん…だったんだ。
それも、弟のための生活費まで稼いでいるなんて。

「こっちが学生だと思って遅い時間にシフト入れやがって…おかげで昼夜逆転ってわけ」

ずっと、ただの不良学生だと思っていたのに。
そういう事情があると分かった途端に、なぜかエース君が格好良く思えてくるから不思議だ。

あれ…ひょっとして結構イケメン…?
うん、かなり私好みかも。

「でも、そんなこと続けてたらさすがに単位落とすよ…?」

で、こっちも本音。

そりゃ、エース君ともなれば試験の一つや二つは楽々突破しちゃうのかも知れないけど。
それでも、やっぱり一度も授業を聞こうとしないのはどうかと思うから。

「んー…成績はキープできてるつもりだけど」
「せっかく試験でいい点取っても平常点で差し引かれてたら勿体ないじゃん」

さらに突っ込むと、エース君は面倒そうな顔で頬を掻く。

あ…さすがに、ほぼ初対面の相手にここまで言われたらうざいか。

「……ごめん、」
「えっ、何が?」
「いや、何がって…」

エース君にはエース君なりの事情があって。

確かに昼夜は逆転してるし授業も寝てばっかりだけど、それでも必要単位を取れるだけの努力はしているのに。

「勝手に…いろいろ言いたい放題で…」

気まずくて、エース君のほうを向いていた身体をやっと教授のほうへ戻す。
もやもやした気分を紛らわせようとシャーペンを取ると、横から吹き出したような声。

「…何よ、」

もう一度振り向けば、エース君はまた愉快そうに笑っていて。

「俺、決めた」
「何を?」
「お前、俺とほとんど授業同じなんだろ?だからさ、」



休み時間にお前が膝貸してくれんなら、もう授業中に居眠りしねえよ――



「……………………え?」


遅すぎる春が、ようやく私の大学にもやってきたようです。


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あきゅろす。
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