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踊ろう!世界が回るまで!
蒼痣がカラフルで綺麗です。

心の臓以外の傷はほぼ治った。
しかし背中の傷跡が痒くて仕方がない。
掻いてくれる下の者も居ないので孫の手を探しているのだが、そんな気の利いた物が在る家ではない。背中に手をやると胸を張らざるを得ないので、治らぬ部分が痛む。そのため人目のないときに、獣のように柱の角に背を擦りつけている。
孫の手くらい家主にねだってみればよいとお思いだろうが、野郎はその様子をこっそり眺め、私のその獣のような動作を面白がっている節がある。
何かと理由をつけては断固として買ってこない。
昨夜、ついに私の、他の物と比べ若干短めの堪忍袋の緒というやつが切れ、野郎の茶にセンブリを入れてやった。

ここで私の認識不足だったのが、野郎の堪忍袋の緒もだいぶん短かったということである。



第四話、
蒼痣がカラフルで綺麗です。



口に含んだ茶を噴き出した様子を指さして大声で笑った次の瞬間には、私はちゃぶ台と共に障子戸と雨戸を破りながら庭へぶん投げられていた。

仮にも怪我人になんという仕打ち。
やられたらやりかえせを信条としていた頃の習慣が身体に沁みついているため、お互い気が済むまでなぐり合った結果、居間と縁側が半壊してしまった。


『寒い……』

「黙れ。俺が帰ってくるまでに直しておけ」


などと腫れた口元でトンデモねえことを言い残して、夜明けとともにさっさと仕事に行ってしまったあの野郎、鼻っ柱をへし折ってやればよかった、と思いながら鼻血が垂れないようにとつけていた鼻栓を抜いて、居間の抜けた床から修繕している。

いつか泣かす。

その後しばらくは無心で修繕に集中し、
気が付くと陽が高い。
居間だけ終わらせてから休もうと決め釘を咥え直すと、背後の庭先から声をかけられた。


「もし、あなたがマダラの食客かの」

『……どなた様か』


もう一息と気合を入れた直後かつ食客と呼ばれたことで苛立ちが増し、売られた喧嘩を買う態度で振り向いてしまった。
見止めた途端、久々の陽の気質溢れる人間に思わず目を細めてしまう。


『……里長殿が何用か。家主であれば、まだ帰ってはおりませんぞ』

「いや、貴殿にお会いしたく、参ったのだ。それにしても、ずいぶんと派手にやったのう!」


そう言うと、縁側から室内へ上がり、


「あっ」


これから直そうとしていた床を元気いっぱい踏み抜いた。


『こら……』

「直す!直します」


こちらが文句を言おうと顔を歪めて凄むのを制する。
壊したくせに生意気。
なにやら手をもちゃもちゃさせたかと思うとそこらから樹が生え、あっという間に床から縁側から壊れた部分を直してしまった。


『すごい!』


直った部分を撫でたり叩いたりしてみたが、半壊前より良くなっているような気がする。
建てられたばかりの家の、材木の良い匂いがする。
ため息を漏らして感動してしまう。


『……すごい!』

「だろう!」


そうとも、忘れていたが私は忍びの、こういうおかしな術を見てみたかったのである。
家主は約束をしたくせに、近頃は

「お前にはまだ早い」

などと童に言い聞かすようなことを言い、あまつ

「もう休んだ方がいいんじゃあないか」

と寝かしつけようとしやがる。
太ェ野郎である。殴り合いもやぶさかでない。
そのような状態であったため、念願叶って興奮している。


『すごいなあ……便利だなあ……どうやっているんだ?忍びは皆、こういうことができるのか?』


たすき掛けした袖を直すのも忘れて里長に詰め寄る。


『ほかにどんなことができる?水やら火やらは噴けないのか?目の色は変わらないのか?私にもできるようになるかな……、ぁ、』


なんということ、まだ訊きたいことがあるというのに。
興奮しすぎたらしい。脈が上がり血流が良くなり過ぎたのか呼吸が苦しくなってきた。
口をおさえて背を丸める。
呼吸を腹式にするよう意識する。
情けない。少し興奮しただけでこの様とは。
様子のおかしい私に気づき、即座に背を支えようと里長がこちらに手を伸ばしたときに、


「……おい、何をしている」


……間の悪い、家主のご帰還である。
直してもらったばかりの縁側を踏み割るような音を立てて上がり、こちらの身体を里長から庇うように抱え込む。
顔色が悪い……と思ったが、それは私が鼻っ柱の狙いがずれて頬骨を殴った痣が青くなっているだけだ。
もう、見慣れてきた顔を見ているうちに落ち着いてきた。


『……おもしろい術で直してもらったのを見て、興奮しただけだ』

「……そうか。柱間、あまりこいつを興奮させるな。世話をかけた。茶でも飲んでいけ」

「……いやあ、すまんかった!そうさせてもらおう!」



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