[携帯モード] [URL送信]

踊ろう!世界が回るまで!
鳥獣飼いの基本

「鳥千代様はずっと旅をしてたの?」

『そうだよ』

「だからいろんなこと知ってるの?」

『ちょっとだけ勉強したこともあるからね』

「それを族長様に教えてるの?」

『そうだよ。渋々教えている』

「しぶしぶなの?」

『渋々だ』



第三話、
鳥獣飼い基本



おのれの治癒力の高さか、仇兼恩人の手慣れた看病と煎じたクソのように不味い薬のおかげかはわからないが、屋敷の中を歩き回れる程度にはなってきた。
回復してくると、私の城と町が燃やされ、その周辺では残党狩りがされている旨を伝えられた上で手に掛けられていた錠を外された。
此処に居なければ死ぬだけだぞ・ということだ。
伝え方が一々いやらしい。
はっきりそう言えばよいものを。


『頼んじゃいないが、ここまで回復できたこと、まずは礼を言う。代わりにまつりごとやら、知りたいことについて教える約束も、違えるつもりはない。だが、腹に一物抱えた状態で物を言うのはやめなさい。忍びの癖か何かか。むかっとするぞ。むかっと』

「そうか」

『おい、ちゃんと目を見て返事をしなさい。聞いているのか。遠くを見るんじゃあない。なに懐かしそうなツラしていやがる』


このような会話の後は、比較的思ったことや伝えたいことは、はっきりと言うようになった、と、思う。
むかっ腹の立つ態度は変わらないが、文化圏が違う生き物なのだから致し方ないと受け入れることとした。

この頃、この忍里の方向性や概要を教えてもらい、その流れに沿うような知識や法律を思いつくままに伝え、野郎はそれを覚え書きしつつ、時たま意見を述べ、私もそれに対し助言を返し、まとめたものを文書としてどこかへ持っていく……という一連の流れができている。
そうしてどこかから帰ってきた野郎は、どことなく機嫌が良さそうなので、事はうまく運んでいるとみてよろしい。
野郎の思うとおりに事が運んでいるというのは、すこしばかり気に食わないが、一度失くしてしまったおのれの思想や知識を、違う形となっても後の世に繋げていくことができるのは、悪いことではない。

などと思いながら、縁側でぽかぽかひなたぼこをする。

屋敷に一人のときは、縁側で日を浴び、この土地のにおいに慣れる努力をしているのである。
そうしていると、野郎の一族の子どもたちが集まってくる。
皆整った顔立ちをしていて、大変めごい。
ある時、塀から顔を覗かせた数人に、ついつい気を引きたくて、昔話やら遠い土地の話やらをしているうち、家主の居ない間の屋敷に子どもが集まるようになってしまった。
僥倖。
それにこの子どもたち、なかなかよい働きをする。
我が名誉のために言っておくが、特別なことやアコギなことをさせているわけではない。
まだ里を歩き回れない私の代わりに、里や一族内の様子や噂話を教えてくれるのだ。どうせ治ったところで里に出しちゃあもらえまい。今のうちに手懐けて情報を得る足掛かりを作っておくに、こしたことはない。
彼らのおはなしは、大変興味深い。
ただし、


「まあ、また族長さんのお屋敷に行って!お客様の養生の邪魔をしてはならないと言ったでしょう」


何か確信に触れそうになると親御さんのお迎えが来る。


「ご迷惑かけませんでしたか」


と言いながら目が笑っていない、が、


『いいえ。おや、紅を変えられましたか。お似合いですよ』

「ま、まあ……」


こちとら伊達に一城の主をしていたわけではない。
身近なものを味方につけてまとめあげることなどお茶の子さいさい!滅びたけれども!
手懐けた子どもの女親を手懐けること、芋づる式のごとし!
容易い!


『またいらしてくださいね』

「家主を差し置いて何言っていやがる」


にっこり笑った背後から、いつの間にやら帰宅した家主が低い声で釘を刺してきた。
振り返ると、見下ろす幸薄そうな呆れ顔。


『おや、おかえり。もう帰ったのか』

「俺の家だぞ……いつ帰ろうが俺の自由だろう」

『そういうつもりで言ったわけではないのだが……一人で寂しいから、ちいさい子らと一緒に居たのだ。良いだろう、そのくらい』

「要らぬ知恵をつけさせていそうだ。お前は信用ならないからな……」

『失敬だぞ。そんなこたあ、ないよなあ?』


そう言いつつ子どもたちに顔を戻すが、すでに誰もいない。


『脱兎のごとく、とはこの事よ……お前、怖がられ過ぎではないか。もうすこし優しい顔をしてごらん』


と、隣にしゃがむ家主に言ってみるが、憮然とした顔は変わらない。


「余計な御世話だ。必要ない……ところでお前、そんなに寂しいというならば、里に連れて行ってやってもいいんだぞ」


なんと。
この流れでそんな素敵で意外な提案をされるとは思わなかった。


『いいのか』

「もうすこし、体力を戻したらな」

『お、おお……そうか、いいのか……』


(まずは餌付け)


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!