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踊ろう!世界が回るまで!
勝てば賊軍

死後の世とはどのようなものであるのか、そもそも思考が可能なのか、自己を保つことができるのか……

などということは生前、生きることで精いっぱいで考えもしなかったため、死んだ今、考えている。
どうやら思考は可能らしい。おのれが何もであるかも今のところはわかる。

天井の木目、清潔な布団と畳の匂い、しかしどこか他人行儀な……他所の家に泊まった時の雰囲気。
もっと花であふれ、どこからともなく管弦の流れるような場であると、何かの書物には書いていなかったか。

それにしても身体中が痛い。
吐きそうだ。
死んでもこんなにしんどいとは……死んだのだからもうちょい楽をしたい。


『……ゲェッ、ゴポ…』

「貴様…畳の上で…」



第二話、
勝てば賊軍


気管やら何やらに詰まっていたらしいおびただしい量の血痰を、横を向きその場に吐き散らすと、頭上から死ぬ直前に聞いた声が降ってきた。


『おやお前。なんだ、お前も死んだか!ざまあねぇな!』


呵々と笑うと、不審げに眉をひそめ、手拭いで私の口周りを、そして畳に吐かれた血痰を拭う。


「死人がこんなものを吐き散らすか。俺はもちろんのことお前も生きている。ぎりぎりと言ったところだが……」


言葉を返しはするものの、畳の汚れを落とすことのほうが大切とばかり、気もそぞろだ。
まさか心臓を刺されて生きていられるほど、おのれが頑丈と思わなんだ。
身体の感覚からして四肢は健在のようだが、妙に重い。
腕をおもむろに眼前へ掲げると、錠がしてある。


『……捕虜か』

「そうなるな。思うところあって、お前を助けた。俺が拾い、救った命だ。俺のために努めてもらうぞ」

『ええ……嫌だな……だって刺したのもお前ではないか……』


どうやらまだ熱があるようで、朦朧と天井の木目を数えながらうわ言のように呟くと、汚れていない濡らして絞った手拭いを額にあてがわれる。


「そう言うな。お前の知識が欲しい。お前とて、ここに居れば、お前の興味があることを知れるのだぞ」

『たとえば』

「……口から火を噴く理論くらいは教えてやれるだろう」

『……さようか』


鎮痛剤でも切れたのか、身体の底から痛みや熱を感じる。吐く息も熱い。教えられるまでも無く、火焔の一つも吐けそうだ。


『熱い……』

「……しばらくは養生をしろ。後々、順に話をしていく」


一度最期を決めたものを、再び生きることとなると、なんと辛く、面倒な事だ。
あのまま死ねればこのような思いをすることもなかっただろうに、余計なことをしてくれる。
余計なことをしてくれた尊大なこの男、そういえば私はいまだ名も知らぬのだ。
名も知らぬ男の指先は、ひどく冷たい。
そのくせ見下ろす、そのすがるような眼は、いったいどうしたことか。

噛みつく気も失せるというものよ。


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あきゅろす。
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