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死に神はうつくしかった
群雄割拠、戦国の世、私は一城の主である。
物心ついた頃より庇護してくれる者もいなかったので、腕っぷし一つでここまで来た。
譜代の者からは
「成り上がりの、獣が如き輩よ」
などと言われている。おっしゃるとおりである。
よって与えられた土地も荒涼として作物もよく実らぬような場ではあるが、幸い商人の通る街道に近かった為、自由に商いをさせることでモノもヒトも集まり、城下は適度に賑わい、力を蓄えるほどとなった。
獣の下に集まるものなど大半は獣、柄の良くないものが多いが、気は良い奴らよ。
おのれの成すべきことを成していれば善しとしていた。
しかししょせん成り上がりの獣ゆえ、少々派手にやり過ぎ、御上の目に留まった様子。
『よもや、気に食わんからと、手前の国から戦を仕掛けられるとは努々思わなんだぞ、忍びどもよ』
第一話、
死に神はうつくしかった
「…この状態で、よくしゃべるな」
久々に殿なんぞ努めたため、身体中に矢やらクナイやらが刺さり、今も前下方から突き上げるように心の臓を刺し貫かれてしまっている。
言葉を吐くたびに尋常ではない量の血もこぼれる。
おっ、こいつは死ぬな、
と思うと、不思議なことに妙に生き生きとしてしまって、饒舌になる。
『忍と直に口を利くのは初めてだから、少し楽しくなってしまっている。お前たちはオモシロイ。口から火やら水やら吐いたり、樹を生やしたり、赤い眼になったり白い眼になったり…どうなっているんだ?一度話を、してみたかったんだ…』
「お前の話に付き合っている暇はない。情報によると、お前が城主だな。城下の者だけでなく、臣下の者も全員が城を、お前を捨て置いて逃げている現状……守るものも無く、寄る辺も無く……哀れな奴だ。
何のために戦っている」
付き合う暇はないと言いながら、この男もなかなか饒舌だ。
こんなにしゃべる男だったのか。
意外だ。
『何ってお前、あいつら、しょせん獣ゆえ、身内の軍勢を前にした途端に
「まだ死にたくないと」
のたまいやがるもんだから。死にたくない奴に、こんな土地やら城やらのために、死ね、とは言えまい
四方へ散って、各々幸せに暮らすが良いのさ……
逃がすに、時が要るだろうよ』
「武家の者とは思えんセリフだな。主を護るが臣下の役目ではないのか、お前らは」
『……仮にも忠誠を誓っていた<主>にシバかれている、この状況じゃあなア……まあともかく、お前をこうして止めている限り、私の殿としての役目は果たせているというもんだ…』
「…俺一人を留めたところで」
『お前さえ留めれば良いのさ。お前を留める前に半数くらいは潰せたろう。この戦、戦力の要はお前だ。以前、お前を戦場で見たぞ。遠目にだが……鬼神のようにうつくしく、舞うように戦うものだと……お前さえ留めれば、残りの輩は、あいつらでも対処できよう……』
「……舐められたもんだ」
『お互いにな』
話しは終わったとばかりに、忍は刀を抜こうとしたが、動かぬことに気づき、初めて、少し目を見張る。
最期を覚悟しているが、やられっぱなしは性に合わない。
今、この一瞬が勝機、
『首級、もらうぞ』
脇差を抜く。
獲れる。
確実に獲れる。
身体が、首級を挙げる感覚を、今に認識する……
だが、剣先わずかに及ばず、長い髪を幾分か削るのみ。身体に刺さったものたちが重い。
しかし視線はそのままに、腰を落とし、首級は無理でもこの男、具足がやわだ、足を落とす。
「残念だったな」
決めた途端に声がして、気が付くと床に転がっているのは私であった。
よくこの床に座って、軍議と称して酒を煽って潰れて雑魚寝をした。アッ、ゲロ吐いた跡がまだ残っていやがる……どうでもよいことを、こんなときに思い出してしまうとは、これが走馬灯というやつか。
最期に視たものが床のゲロ跡なんぞ、御免こうむりたい。声の方へ眼をやる。
『…残念だ。その首、欲しかったな。綺麗な首だ。お前がそうして身体に乗せているより、大切にするぞ』
「…死に際の戯言として聞き流してやる。早く死ね」
『そういわれると、ぎりぎりまで粘ってやりたくなる……なんだかんだとお前、相手をしてくれるしな…優しい奴め』
からかうと眉間のしわが深くなる。からかいがいがある奴だ。
「ふん……お前自身はともかく、町の作り、行政、教育の仕方には敬意を払うべき内容だった。里づくりのために参考にしようとしていた矢先にこの様だからな…情報だけでも得ようとしていただけにすぎない」
『そいつは、残念だったな…それにしても、忍の里なんてものがあるのか…』
「最近できたばかりだ。今後もっと大きくなるだろう。だが、お前はそれを見ずに死ぬ」
『なんだそれ…オモシロそうじゃあないか…』
『ところでまつりごとや教育方針についてまとめた書類があったような気がするが』
「何」
気がするが、気力が限界を迎えたようである。
残念だったな!
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