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GEASS
ルージュに愛された恋人よ






所詮、主君と騎士が友達になるなど、初めから無理な話だったのだ。
俺は、去っていく枢木の腕を掴めなかった。
行かないでと叫べなかった。
所在無げに宙に漂う右手を、俺はゆっくりと下ろした。
何の為の腕なのか。
いつもこうやって、俺の大切なものは、俺の手から滑り落ちていく。
平和な生活も、母さんも、大切な妹も、俺の居場所すらも。
そうだ。結局子供のごっこ遊びだったんだ。
残るものすら何もない、空虚な友情ごっこ。
権力に物を言わせた俺の我儘に枢木を付き合わせていただけだ。
きっとあいつも内心笑っていたのだろうな。
俺の姿はさぞ滑稽だったことだろう。
ユフィと同じ?
そんなことあるわけないのに。
俺はこんなにも狡く、醜い。
言い訳を重ねて、枢木を手元に置いておきたかったのだ。
溢れるのは、悔しさや憎悪ではなく、ただ虚しさを孕んだ涙だった。






「こんにちは」

政庁から出て来た僕に話しかけてきたのは、「いかにもブリタニア人です」と言った風貌の青年だった。
見覚えがなかったから、人違いかと思い無視することにした。
残念ながら今の僕は、他人に構っている余裕がないほど、激しい後悔と自己嫌悪に苛まれている。

「ちょっ、待って」

すれ違い様に腕を掴まれる。
僕は不機嫌を露にしながら、長身の彼の、高い位置にある顔を睨み付けた。
金髪碧眼。
美術の教科書などでよく見かける、そうまるでギリシャ彫刻の様な顔立ち。
……美形なんて滅びればいい。

「……何ですか?」

たっぷりと間を空けて問う。
あぁ分かっている。
こんなのはただの八つ当たりだ。

「あんたもしかして日本人?」

そのあっけらかんとした物言いに、僕は一瞬戸惑った。
僕が日本人以外の何に見えると言うのだろう?

「………は?」

「あ、いや私エリア11来るの今日が初めてで。疎界歩いてる人なら、そこまでブリタニア人とか、意識しないでくれるかと思ったんだけど……気分を害したのならすまなかった。そりゃ急に声かけられたら、誰だって驚くよな」

アハハと笑い、その青年は僕の腕を離した。
始めは馬鹿にされたのだと思った。
だが彼は、ナンバーズである僕に謝ってきたのだ。
謝罪されたのにも驚きだが、もっと驚いたのは彼が「日本人」と言ったからだ。
普通のブリタニア人なら、何も気にせず「イレブン」と呼ぶはずなのに。

「いや…こちらこそすみませんでした。少々気が立っていて…」

僕は自分を恥じ、素直に頭を下げた。

「へぇー殿下の仰っていた通りだ。日本人は礼儀正しいな。でも、そんなに畏まらなくてもいいって。私はそういうの気にしないから」

殿下…?
つまりこのちょっとお気楽そうなブリタニア人は、少なくとも皇族と話せるくらいの爵位を持っているということか。
それはまずい。
これ以上不敬な真似をしたら、僕の今までの努力が水の泡だ。

「その…何故自分を呼び止められたのですか?」

自分の持っている中で、最上級の笑顔を送る。
これでオチなかった男はいない。
もちろん目の前の彼に対して、邪な情動なぞ一切持ち合わせていないのだが、事を穏便に運ぶには必要なのだ。

「あ、悪い悪い忘れてた。エリア11の政庁の入り口ってココで合ってる?」

「はい。この道を真っ直ぐに進めば、正面玄関です」

「良かった。助かったよ、ありがとう」

颯爽と手を振って去って行く彼の姿は、昔見たブリタニアの映画の俳優を彷彿とさせた。
何をしても様になるということか。
ルルーシュの顔ももちろん美形の部類に入るけど、中性的な顔立ちのため、やはり今の青年の様な雰囲気は出ないのだろう。
屈託なく笑い、また自分にはないものをたくさん持っている青年の後ろ姿を思い出し、僕はもう二度と会いたくないなと思った。
と同時に、ルルーシュのことを思い出してしまったためか、明日からの仕事にどんな顔で出向けば良いのか心底悩む羽目になってしまった。






コンコンとノックの音がした。
枢木が戻って来てくれたのかもしれないという、淡い期待を胸に俺は勢いよく扉を開けた。

「くるる…っ!!」

なんて幸せな構造をした脳味噌だろう。

「くるる…?」

俺は満面の笑みで扉を開いたことを、ひどく後悔した。

「ジ…ノ…?」

目の前にいたのは、枢木とは似ても似つかない人物。
いや、犬っぽいところは似ているか。
奴は柴犬辺りだが、目の前のこいつはうるさい大型犬だ。

「もしかして…私すごいお邪魔虫でしたか?」

首を傾げ、困った様に笑うジノを見たら、不思議と俺の抱えていた淋しさも不安も後悔も吹き飛んだ。

「いや…!!!」

俺は懐かしい旧友に飛びついた。

「久しぶりだな、ジノ」






Title by "9円ラフォーレ"

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