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GEASS
カナリアの懺悔






お兄様が帰ってきた。
その連絡を受け、私は急いでお兄様の部屋へと向かった。
長いEU制圧の任務から無事に帰還されたのだから、きっとお疲れのはず。でもお顔を見て、ご挨拶だけはきちんとしないと。
ノックをしようと手を上げると、扉一枚隔てた向こうの会話が、途切れ途切れだけれど聞こえてきた。

「……そうか、ルルーシュが……」

「はい」

この声は、お兄様とカノンさんかしら。
私はそっとドア越しに耳を欹てた。

「コーネリアは、こちらに報告する気がないようだね」

「えぇ……ですからいくらユーフェミア皇女殿下の頼みとはいえ、あんなイレヴン……」

「枢木スザクくん、だったよね?うん……中々面白そうな少年なんだけどね……」

「殿下に気に入られたらお仕舞いですわね」

エリア11で、何かあったんだわ。察しの悪い私でもそれぐらいなら分かる。
……それも、私のせいで。
お兄様にはきっと色々と考えがある。お兄様が動いたら、私に出来ることなんて何もなくなってしまう。お兄様には、それだけの知略と力がある。

「あら、ちょうどいいところに。ユーフェミア皇女殿下」

いつの間にかドアが開き、中からカノンさんが出て来た。
やっぱり……気付かれていた。

「もしかして、私に会いに来てくれたのかな?ユフィ」

真正面の椅子に座っていたお兄様が、ゆっくりと立ち上がる。顔にはいつもの優しそうな笑み。

「え、えぇ……そうなんです!!EUから無事ご帰還なされたって聞いて、私嬉しくなっちゃって!!お疲れさま……じゃないですね、おかえりなさい。シュナイゼルお兄様」

動揺していることを悟られないよう、私は普段通り元気に喋った。

「ただいま、ユフィ。君はいつも通り元気そうだね」

「えぇ、元気だけが取り柄ですから!!」

ふふっと、私が微笑むとお兄様も微笑む。
だけど何を考えているのかは分からない。
さっきの会話の言葉の意味も、聞きたいけれど聞けない。聞いてはいけない。
それで傷付くのは私ではないわ。多分エリア11のみんな。

「今ここで会えて良かったよ、ユフィ」

「え?」

「すぐにまたここを離れなくてはいけないんだ」

「……し、しばらくは本国にいらっしゃるって、さっき……」

「急な用事でね」

お兄様が苦笑する。
怖いのはお兄様がいなくなることじゃない。お兄様が自ら出向くということ。

「そういえば、ユーフェミア皇女殿下はエリア11に留学なさっていたんですよね。お話お聞かせ頂けませんか?」

カノンさんの自然な笑みと動作で、私はいつの間にか部屋の中に招き入れられていた。後ろで扉の閉まる音が聞こえる。
くらりと足元がふらつきそうになる。
危ない。ルルーシュとスザクが。頭が警鐘を鳴らすのに、私には何も出来ない。何の力もない。

「エリア11にいるルルーシュが……今、重体らしいんだ」

「じゅ、う、たい?」

目の前が真っ暗になった。言葉の意味が分からない。

「テロ事件に巻き込まれてしまったらしくてね」

確かにエリア11はテロが頻繁に起こる地域だ。
でも、どうしてルルーシュが?

「私はその事件の真実を知りに行くんだ。コーネリアがこちらに報告してこないということは、何か隠さねばならないことがあるということだよね。そしてそんなこと、一つしかない」

スザクのこと……仮の騎士と言えども、何故主を護ることが出来なかったのか。

「ユフィ。君は人を見る目がある子だと思っているよ。だけど、枢木くんにはルルーシュの騎士というのは些か重荷だったんじゃないかな」

私が、押し付けた。二人が友達になってくれればいいと、ただそう思い込んで。
私の我儘がルルーシュを、スザクを、傷つけた。

「彼の真意も知りたいし、ルルーシュの容態を見に行くだけだよ。君は何の心配もしなくていい。また何かあったら連絡するから。それじゃあ」

何も言えずに呆然と立ち尽くす私の横を、シュナイゼルお兄様とカノンさんが通り過ぎる。
驚愕と後悔と自責の念で、涙すら出ない。






「僕は父さんを殺したんだ」

その時、私は何も分かっていなかった。スザクの言った言葉の本当の意味すらも。その悔しそうな表情の意味さえも。

「………、それは言葉通りの意味なの?」

間接的には人はいつでも誰かを殺してる。少なくとも私はそう考えている。
だからきっとスザクの言った意味は「僕が父さんを殺したようなものだ」、そういうことなのだろうと楽観的に解釈していた。
だって、枢木首相が亡くなったのはスザクが10歳の時。どう考えても、おかしい。

「あぁ、そうだよ。僕が父さんを殺した。この手で」

両手を震わせながらスザクは焦点のあっていない目でそう言った。

「……大丈夫。あなたが思い悩むことないわ。きっといつか、あなたの全てを許してくれる人が現れる。安心して」

大丈夫。そう何度も何度も彼に言い聞かせた。
自分は彼の罪を一緒に背負おうとはしなかったくせに。最低だ、私は。
何もかも押し付けて、逃げたんだ私は。
そのせいで彼らをたくさん苦しめた。
ごめんなさい。今はもうただ只管に謝りたかった。
声も届かない、彼の地の彼らに。






「随分とお優しいじゃないですか」

斜め後ろを歩くカノンが含み笑いと共に言った。

「大事な大事な弟君を傷つけた人なのに」

ちゃんと罪を自覚させるなんて。

「彼女も大事な大事な妹だからね」

だからこそ容赦はしない。
これから会う、ルルーシュを傷つけたあの男には。
そう。世界は彼らの知らないところで変化し続けているのだから。






Title by "9円ラフォーレ"

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