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GEASS
わたしはひとりぼっちを怖がって






―――あの女の子は、無事か?

それがセシルの聞いた、ルルーシュが意識を飛ばす前の最後の言葉だった。
錯乱状態に陥り、ただただルルーシュを抱きしめていたスザクを見つけるのは簡単だった。
その前の絶叫。
何かが起こったのは確かで、共に来ていた軍の人間が彼を探しに行ったのだ。
血濡れの身体を抱き、その名を狂ったように呼び続けていたらしい。
救護用トレーラーに到着した時は、どちらが怪我人か分からないくらいだった。
病院へ運ぶ車内でも、決してスザクはルルーシュの手を離しはしなかった。
病院に着き、急いで手術室へ向かうためルルーシュの身体がベッドに乗せられ、ゆっくりとスザクの手から彼の手が離れる時、血の気を失った彼の薄い唇が開いた。

「あ……の、おんな、のこは……ぶ、じか?」

薄れゆく意識の中で、彼はそうスザクに尋ねた。
一瞬、その場から音という音が消えた気がした。

「………うん。無事だったよ、今、トレーラーで手当てを受けてるんだ」

今まで錯乱していたのが嘘のように、冷静になり笑顔を顔に貼り付けスザクは言った。
思い返してみると、この時ももしかしたら彼の精神は正常ではなかったのかもしれない。
その時のスザクは、スザクではない、誰かのようだった気もする。
だがルルーシュは安堵しながら微笑んだ。

「………良かった」

本当は気付いていたのかもしれないけれど。真実に。
夥しい血液の量。
銃声は二発。
彼に向けて放たれた弾丸は、ちょうど心臓の上ギリギリを貫通していた。
そしてもう一発の行方は。
どちらが先に撃たれたかは今になっては分からないが、幼い少女の頭に向けて―――
思わず溢れそうになる涙を必死に堰き止め、セシルは手術室へ流れるように運ばれていくルルーシュをただただ見送った。
あれから何時間経ったかも分からない。
スザクは項垂れたまま、黒いベンチに座り込み動かない。
ロイドはスザクと向かい合うような位置で、反対側の壁に凭れ掛かりながらじっと立っていた。
セシルは手術室へと慌しく出入りする医師や看護師を眺めていた。
皆一様に、目の奥が鈍くくすんでいた。






―――父さん、父さん。

―――ねぇ、戦争なんて止めてよ。父さんなら何とか出来るんでしょう?だって、日本で一番偉い首相なんでしょう?人殺しなんて、もう止めさせてよ。

毎日、毎日家の中に閉じ篭っていた。
外には、人の身体の焼ける臭いが漂っているから。

―――何人も死んでいるんでしょう?藤堂先生だって、何処かに行ってしまうんでしょう?

淋しかった。
信じられる大人はもういなくて。
自分たちは生きているのに、たくさんの関係ない人たちが死んでいって。
父さんならばこの戦争を止められると思っていた。
父さんに出来ないことは何もないと思っていた。
でも、違った。
父さんがいるから、戦争は終わらないんだ。

―――父さん!!

壁に掛けられた時計が、正午を知らせた。
無機質な時を告げる音が頭の中に鳴り響く。
腹部から血を流す父の姿。
真っ赤な包丁を握り締める幼すぎる手。
昔、母の使っていた化粧棚に付いていた鏡に映るのは、小さな小さな死神の姿。

―――うわぁぁあぁぁぁぁあぁあぁあ!!!!!!

僕の時は、そこで止まってしまっている。






早く、母さんに見せよう。
クロヴィス兄様と一緒に描いた、僕ら家族三人の絵。
母さんは何処だろう。
母さんは、ナナリーは、何処にいるのだろう。
宮殿内を走り回っていると、けたたましい騒音と悲鳴が聞こえてきた。
どうかしたのだろうか。
音のした方向へ走る。
使用人の制止を振り切り、ホールへと躍り出る。
その瞬間、目の前に現れた光景に、僕は思わず声も出せずに立ち尽くした。
窓ガラスは全て割れ、そこら中に破片が飛び散っていた。
床も壁も血塗れで、その場にいただろう全ての人が死んでいた。
もちろん母さんも。
だが、母さんの身体が少し動いた。

―――おかあさま?

ナナリーの声だ。
母さんが身を挺して護ったナナリーの声がした。そして我に返る。
あぁ…あぁ…あぁ…

―――うわぁあああぁっぁああああ!!!!!

僕は頭を抱え、座り込んだ。
目の前に写る景色は真っ赤なはずなのに、僕の心は絶望という闇に塗り替えられた。
掴んでいた絵は、いつの間にかぐしゃぐしゃに握り締められていた。
嘘だ。嘘だ。嘘だ。誰か嘘だと言って。
ねぇ、母さん。
違うよね、僕たちはまだ三人で一緒にいて、仲良くアリエスの離宮で暮らしているよね。
僕らはいつまでも三人で。
僕らがバラバラになることなんて―――






Title by "ダボスへ"

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