GEASS
ああ嘆かわしくは 馬鹿上司!
お坊ちゃまスザクと執事ルルーシュ。学校へ行こう編。
「おい」
あの馬鹿、もとい邪魔者が学校に行って数時間。
部屋の掃除し、花瓶の水を変えるついでに花も季節の物にしよう、それに天気も良いから洗濯もたくさんできるな……そんなことを浮き足立ちながら考えていると、後ろから声を掛けられた。
振り返れば憮然とした態度で俺を睨み付ける一人の女。
……あぁそうだ。邪魔者はまだまだたくさんいる。
「………………なんだC.C.」
たっぷりと間を置き俺は彼女の名を呼んだ。
「耳でも悪いのか?呼ばれたらすぐに返事をしろ」
何様のつもりだ。
いや何様も何も、俺は彼女が自分の上司なのかはたまた枢木家の人間なのか、むしろ本名すら知らないのだが。
それにしたってここまでふんぞり返られて気分がいいはずがない。
「ドウモスイマセンデシタ」
「心が籠っていないな。それに笑顔が嘘臭い。ファーストフードの店に修行にでも行って出直してこい」
だから何様のつもりだと言っている!!
俺は怒りを何とか押し殺しC.C.へと顔を向けた。
「で、用はなんだ?」
「ピザを頼め。とろっとろのチーズのかかったやつ」
「黙れ!!さっき朝食を食べたばかりだろう!?」
「冗談の通じないやつだな。つまらん」
ふんっと鼻を鳴らすC.C.。
お前が言うと冗談じゃ済まないんだよ。
「これだ」
GPS付きの携帯電話。今のご時世子供の安全を気にする親なら誰でも持たせる代物だろう。それが金持ちの息子であるならば特に。
『で、それを俺にどうしろと?』
『察しろ。あの馬鹿息子が忘れて学校に行ったから届けろということだ』
『……珍しく気が利くじゃないか』
『その馬鹿息子の馬鹿な親が、心配で仕事が手に付かないと駄々を捏ねるんだ』
そう言えばあの人も大概な親馬鹿だ。
……真剣に転職を考えた方が身の為かもしれない。
ということでわざわざ俺が学校まで出向いたわけだが……なんだこの敷地の広さ。
枢木邸の敷地面積にも驚いたが、この学校も有り得ない。都心の一等地の何処にこんなに土地があったんだ。
とりあえず建物に辿り着くまでにどれくらいの時間がかかるだろうと考え、俺は思わず溜め息を溢した。
「すみませーん」
時間にして20分。一番近い建物に着くまでの所要時間だ。言っておくが、俺の足の速さは平均だ。
「誰かいませんか-?」
恐らく警備員がいるのだろう窓口に呼びかける。だがさっきからうんともすんとも言わない。
「すーみーまーせーん!!」
「っだぁ!?うっせぇなぁ!!」
いきなり現れたのはガラの悪い男。こんな奴が警備員で本当に大丈夫なのかこの学校。
「何の用だ?ここは一般庶民が入っていいとこじゃねぇんだぞ」
重々承知だ。元よりこんな金持ちを鼻にかけているような奴ばかりいるところに誰が好んで来るか。
「忘れ物を届けに来ただけだ。うちの、お坊っちゃまの」
だから早く教室を教えろ。一分一秒だって長くこんなところにいたくはない。
「枢木スザクの教室を教えろ」
男を睨み上げながらそう言うと、男の目が急に鋭くなった。
「枢木…スザク?お前それ本気で言ってんのか?」
なんだあの馬鹿また何かやらかしたのか?
「…あぁ。そうだが」
「なら余計教えらんねぇな」
「何故だ!?」
「部外者に簡単に情報は渡せねぇよ。そういう決まり」
男は勝ち誇ったように言い切った。
「俺は枢木家の使用人だ!!」
「証拠は?まさか使用人に社員証なんてねぇだろ?残念だったな。一昨日来やがれってんだ」
下品な大声で笑う男を見て、苛立ちが頂点に達した。元々沸点はあまり高い方ではない。自覚している。
「……分かった。そうだよな。枢木家の様なランクAの家柄の人間のクラスなんてそう簡単には教えられないよな。悪用されても困るし…時間を取らせて悪かった」
「あぁそうだ。とっとと帰れ。A組の連中なんて大抵が超ド級の金持ちだ。お前なんかが関…わる…」
俺がほくそ笑んだことにどうやら気付いたらしい。
「なるほどな……A組か…ありがとう。助かった」
やはり家柄でクラスを分けているのか。俺の読み通りだな。
「おっ、おい!!お前本当に枢木家の使用人なんだろ!?なっ!?」
男はすがるように聞いてきた。
「さぁ。どうかな」
極上の笑みを浮かべながらそう言って俺はそこを後にした。
ネームプレートに書かれていた名前。
玉城真一郎。
よし。これでこの学校も俺の勢力範囲内だ。
ただクラスが分かってもそこが何処にあるのかが分からない。
俺は中央の通りを周りを見渡しながらゆっくり歩いていた。すると後方から何やら女子の黄色い声(むしろ悲鳴)が聞こえてきた。
「ジノ様〜〜〜!!」
誰かを呼んでいるのか?
そう思い振り返ると、俺の後ろには全力疾走している大量の女子。女子。女子。
「君、危ないよ?」
「へ?」
視線を前に戻すといつの間にか人が立っていた。
金髪を風に靡かせている長身の男。まるでモデルのような風貌のその男を見て思わず呆けてしまった。
「このままだと彼女らに轢かれちゃうねぇ……」
呆然としている俺に対して、男は悪戯を思い付いた子供のような笑みを向けた。
「ほわぁぁあぁああ!!!???」
気付いた瞬間には俺の身体は軽々と男に抱え上げられていた。言いたくはないが俗に言うお姫様抱っこで。
「お、下ろせ!!何なんだお前は!?」
「あぁもう暴れないで。安全なトコまで連れてくだけだから」
「お前がいるから追いかけられるんだろう!?」
足をばたつかせ抵抗するのも疲れた。いや暴れても無駄だという事実が若干悔しいのも関係しているかも。
それにしても……俺が抱えられた瞬間に女子の声の質が完全に変わった気がするのは、きっと気のせいじゃない(黄色い悲鳴が黒い怒声に聞こえるのは俺だけじゃないはず)
「君はこの学校の生徒じゃないよね?何しに来たの?誘拐?」
「その逆。忘れ物を届けに来たんだ」
「忘れ物?」
「うちの坊ちゃんの忘れ物を届けに来た。それだけだ」
「へぇー俺と年変わらなさそうなのに、執事なんてやってるんだ」
「いろいろあってな」
「ふ〜ん……あっ、しっかり掴まっててね」
「ほぇっ!?」
大して興味も無さそうに相槌を打った後、男は急に勢いをつけて飛び上がった。
驚いた俺は思わず男の首に腕を回し、力強くしがみ付いた。
「おっ、積極的ー」
器用に口笛を吹かしながら男が着地した所は、なんと校舎の外階段の二階部分。
俺は恥ずかしながら驚きで心臓が破裂しそうになっていた。
「いやぁ舌噛まなくて良かったね」
事も無げに言う男に俺は必死で息を整えてから
「……黙れ!!この人外めッ!!」
と叫んでいた。
「まぁそう怒らないでよ。驚かせたのは悪かったって」
犬の耳が付いていたら、きっとペタッと垂れていることだろう。
大きな図体を小さくしてこちらの様子を窺いつつ男は謝ってきた。
……ダメだ。俺は俺は動物には弱いんだ。
「別に怒ってなどいない。ただ驚いただけだ」
「ホントに?」
「あぁ」
良かったーっと言って男は抱き着いてきた。
本当に犬みたいだな。大型の仔犬。正にそんな感じ。
「俺、ジノっていうんだ。君は?」
「ルルーシュだ」
「ルルーシュかぁー…で、ルルーシュは誰を探してるの?もしかしたら俺の知ってる人かも」
手伝うよとニコリと笑うジノを見て、久しぶりに人の優しさに触れた様な気がした(あの家には傍若無人な輩しかいない)
「それは助かる。1年A組の枢木スザクというんだが……」
「スザク!?へぇースザクの家の執事なんだ!!」
「知ってるのか!?」
「うん。同じクラスだもん。今昼休みだし教室にいるんじゃないかな?」
「そうか!!案内、頼めるか?」
ジノはラジャーとポーズを取った。
よし。これでやっと家に帰れる。
「スーザークッ!!」
俺を教室のドアの前に残し中に入ったジノは、早速スザクに呼びかけた。
その瞬間、確かに教室の空気が変わった気がした。
何かと思い、こっそり教室内を覗き込む。
「……………何?」
俺が耳にしたことのない低温ボイスでジノの呼びかけに応じ、また、いつもの人懐こい笑みから一変した鋭い目付きの……誰だ、あれ?
いや、分かってる。分かってるからこそ分かりたくない。
「スザクにお客様」
「は?」
面倒くさそうに顔を上げたスザクと目が合う。
明らかに奴の顔色が変わった。
だがそう思った瞬間には、俺はもうスザクに手を引かれ全速力で来た道を戻っていた。
「はぁ…はぁ……」
とりあえず校舎の外まで連れてこられた。
あまりの早さでどうやってここまできたのかも覚えていない。
「………とりあえず聞いていい?何しに来たの?」
肩で息をしている状態の俺とは打って変わって、スザクは平然とそう尋ねてきた。
微かに語気に怒りを感じる。何だ。俺が来たのはそんなにまずいことなのか。というより俺だって別に来たくて来たわけではない。
掠れて声にならない声を必死に絞り出した。
「……C.C.に……」
「C.C.に?」
「…頼…まれた、んだ」
「何を?」
「これ」
そう言ってポケットから携帯電話を取り出した。
「僕の携帯?」
「朝……忘れただろ……だから、社長が…C.C.に頼んで……それで……」
言い終わる前にスザクは俺を抱きしめてきた。
「うん。分かった。ありがとう、ごめんねルルーシュ」
何がごめんねなのかは分からなかったが、頭を撫でるスザクの手が心地好くて……なんだか頭が回らなくなってきて……
「………ルルーシュ?」
俺は身体全体をスザクに預けた。
「あと、少し、このままが、いい」
木が生い茂っているおかげで日陰になり、たまに吹く微かな風も火照った身体にちょうどいい。頬に当たるスザクの髪の毛が少し擽ったいが、いい匂いがしてくる。お日様の匂いだ。
「ルルーシュ?」
「もう………少し」
あぁ気持ちがいい。
ふかふかのベッド。洗い立てのシーツの肌触り。それに微かに漂う消毒薬の香り……消毒薬?
「!!!???」
「あっ、やっと起きた?」
勢い余って跳ね起きるとそこは真っ白い部屋で、目の前にいたのは枢木スザク唯一人。
「……ここは何処だ?俺はどうしてこんなところにいるんだ?」
状況が把握仕切れない。
「ここは学校の保健室。君があのまま寝ちゃったから連れてきたんだよ」
「眠った?俺が?」
「うん。相当疲れてたんじゃない?それとも最近寝てないとか?」
そういえばここ一週間程夜中にこっそり株取引やら色々していてまともに睡眠を取っていない気もする。
「図星?」
「俺だって忙しいんだよ」
事情が事情だ。俺はそっとスザクから視線を逸らした。
するとスザクの手がゆっくりとこちらに向かってきた。
俺は思わず身構えた。
「ごめんねルルーシュ、ありがとう」
スザクの大きな手は、また俺の頭をゆっくりと撫でた。
何がごめんねで、何がありがとうなのか。未だによく分からないが、ただ、優しい声音で囁かれる名前のなんと心地良いことか。
「お前に感謝される筋合いもなければ、ましてや謝られる必要もない。俺は枢木家の執事として当然のことをしたまでだ」
「うん。だからありがとう」
ふわりとスザクが笑った。心があたたかくなった。
「で、教室でのあの態度は何なんだ?猫被ってる訳でもなくむしろ……」
「あの学校の人たちとは仲良くなりたくないんだ」
「ジノはいい奴じゃないか」
「無害だけど五月蝿いんだもん」
たしかに。
まぁ金持ちには金持ちしか分からない苦労というものがあるのだろう。
「普段からああしていればいいのに」
「えッ!?ルルーシュは黒スザクがお好み?」
「五月蝿くないし鬱陶しくないからな」
「ちょっ…それどーいう意味?」
本当は、彼の笑顔が自分にだけ向けられるものだと知って嬉しかった。なんて死んでも言わないけどな!!
Title by "207β"
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