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GEASS
lesson1
ルルーシュくんと枢木先生。例えばこんな日常。






小テストと称した教師のサボリ。
……いやいや、サボってなんかいない。これもれっきとした仕事。
生徒の様子を適度に見つつ、窓際に立ち校庭の様子を眺めた。
燦々と陽が照りつける中、校庭では男子生徒たちがサッカーに励んでいた。
授業であれだけ動いた後でも、どうせ昼休みになったらまたボールを抱えて校庭へと飛び出すんだ。男子高校生なんてそんなもん。
人が折角懇切丁寧に教えている物理の授業なんて、お坊さんのお経と同じ。机に突っ伏して50分間の睡眠タイム。
………まぁそんな偉そうなこと言ったって、実際僕もあの頃はそうだったのだけど。
動いて、食べて、寝て。
何と健康的かと皮肉めかして笑っても、結局若さが惜しいだけ。悔しいが今の僕では、ああはいかない。

「あっ、ゴール」

一番前の席の子が、聞こえるか聞こえないか分からないくらい小さく呟いた。
外から視線を戻し、彼女を見つめる。
しまった、という表情の彼女と目が合う。

(テスト中)

口パクで注意をすると、少し恥ずかしそうに彼女は俯いた。
だが彼女の言葉通り、ボールはゴールへと綺麗に入って行った。
沸き上がる歓声。一斉に同じチームの選手たちが、ゴールを決めた男子へと駆け寄って行った。
あぁ、きっとこの子は……あの子のことが好きなんだ。
また顔を上げ、校庭の方ばかり気にしているこの子を見て思った。
そうじゃなかったら、こんなに微笑まないだろう。きっと気が付かないだろう。
たくさんいる選手たちの中で、彼だけ、なんて。






放課後の図書室。ここは最近の行きつけだ。
本なんて学生時代は開くだけで頭が痛くなっていたが、今思うともっとたくさんの文章に触れるべきだったかなとも思う。
本当、教師なんて生徒から教えられてばかりだ。
前に借りた本の続きを探し出し、カウンターへと持って行く。

「これ、貸して下さい」

笑顔でそう言うと、カウンターの内側に座っていた少年が、ゆっくりと小さな文字の並ぶ分厚い本から顔を上げた(辞書かと思った)
彼は僕の顔を見るなり、目を丸くした。恐らく今まで僕の存在に気付いていなかったのだろう。
それだけ本に夢中になっていたのか……はたまた放課後の図書室の利用者なんてないに等しいからか……(確かに今この教室には彼と僕しかいない)

「………最近よくいらっしゃいますね」

「まぁね。僕も教養を身に着けないと、何処かの誰かさんに馬鹿にされちゃうから」

馬鹿になんてしてませんよ、と彼は笑った。折角笑った顔が可愛いんだから、もっと笑えばいいのに。
白く細い指を滑らせ、慣れた仕草でカードに必要事項を書き込む。
すごく綺麗というほどでもないが、几帳面に並んだ字に目をやる。案外特徴的な字だと思う。

「どうして今日はまた図書委員なんて?」

「うちの生徒会に人が足りないのは先生も知っているでしょう?」

うちの学校には図書館司書なんていない。
だから普段はここに図書委員が座っているはずなんだけど……どうやらサボられているらしい。

「君の役職ってなんだっけ?」

「生徒会副会長。風紀委員長。図書委員長。美化委員長。あとは諸々の行事の執行部役員エトセトラ」

思い出すのも苦痛だと言わんばかりに、名前を挙げていく。
つまりは委員長自ら出向いているという訳か。
嫌々付き合わされているとぼやく割りに、責任感は人以上ある。部下の不始末は上司が片付ける。そういう理念の表れか。中々頼もしい子であることに異存はない。

「ご苦労様です」

思わず頭を下げながら言うと、

「先生ってよくお人好しって言われません?」

と返されてしまった。まぁ、否定は出来ないけど。ちょっと馬鹿にされた気分。

「なんで今日は眼鏡なの?」

ずり下がった黒縁眼鏡を上げる彼に聞いてみる。

「本を読む時は眼鏡なんです」

校則違反ギリギリの長めの髪の毛を揺らす彼の瞳を、レンズ越しに見る。

「似合ってるね、眼鏡」

「どうしてそうゆうこと平気な顔で言えるんですか?」

照れたのか頬を赤らめる彼が可愛かった。本心なのに。

「おかしいかな?」

「おかしいですよ」

そうかなーと伸びをしながら言うと、溜息を吐かれた。

「そういえばルルーシュくん。今日もまた体育サボってたでしょ?」

彼はギクリと分かりやすく肩を揺らした。

「……見てたんですか?」

嘘を吐くのは嫌い。前に確かそう言っていた。
プライドも高いし負けず嫌いだけど、こちらが何の打算もなく接すればすごく素直に応えてくれる。
そういう子でなければ、恐らく彼を慕う友達もこんなに多くはないだろう(本人が気付いているかは定かではないけど)
基本的に優しい子なんだと僕も知っている。

「見てたっていうか……見えた?ちょうど隣のクラスで小テストやってたんだ」

「職務怠慢じゃないですか」

「ちゃんと一生徒であるルルーシュ・ランペルージが、体育をサボってないか見てたんだから職務は全うしてます」

「自分の授業をしっかりやって下さいよ」

現国・古典・数学・日本史・世界史・地理・物理・化学・生物・音楽・美術・家庭科。
高校でやる授業のほぼ全てを完璧にこなす彼の唯一苦手としているもの。それが体育だ。
言っては難だが、彼の基礎体力や運動神経は壊滅的だ。
サボりたくなる気持ちも分かる。彼がテストで学年一位でも、成績で学年一位を取れないのは全て体育の責任だと僕も思う。

「そんなに体育嫌い?」

「必要性を感じませんし」

体育で学ぶのは、決してサッカーやバスケのルールではなく、他者との協調性や基礎体力だ。しかし結局成績という問題が絡むと、運動神経なんていう潜在能力みたいなものが関わってきてしまう。
言われて見れば理不尽なのかもしれない。
やる気を見せればそれなりの成績は貰えるが、すでに彼の場合はやる気云々の問題ではなくなっている。

「でも、先生よく見えましたね。俺校舎からすごい離れた所にいたのに」

「ん?すぐ分かったよ」

校庭に目をやって、すぐに彼の姿が目に飛び込んできた。
校庭を挟んで校舎のちょうど向かい側。大きな桜の木の下、日陰になっているところにちょこんと体育座りをしている彼の姿が。

「視力いいんですね」

「確かにいいけど……それだけじゃないとも思う」

彼が頭に?マークを浮かべ、首を傾げた。
その顔をじっと見る。
いつもと雰囲気が違うのは、図書室の少し埃っぽい空気のせいか、窓から差し込む夕焼けか、彼の顔を隠す眼鏡か……
ゆっくりと頭を撫でてから彼の額に、軽く触れるだけのキスを落とした。

「好きな人だから、すぐに分かったのかも」

彼は一瞬意識を飛ばしていたけれど、すぐに顔を真っ赤にして額を手で押さえた。

「次の体育サボらなかったら、ご褒美あげる」

そう言って軽く自分の唇を叩く。

「〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」

彼は口をパクパクしながら声にならない叫びを上げた。

「せっ、先生のっ……!!」

ぷるぷると身体全体が震わせ、言葉を選ぶ彼の姿は普段と違ってとても可愛気がある。

「んっ?」

意地悪く顔を覗き込むと、真っ赤な顔の釣り上がった目と目が合った。

「〜〜〜いじわるッ!!!」

そう叫んだと思ったらガタンと大きな音を立て、彼が椅子から勢いよく立ち上がった。
鞄を抱えそのまま帰ろうとする彼が何とも愛しくて、呼び止めるべきなのだろうが逆に大笑いしてしまった。

「ハッハハハハハ!!!」

「なっ、何が面白いんですかッ!!」

羞恥と嬉しさと怒りで真っ赤な顔のまま、彼が振り向いた。心なしか目が涙目だ。

「えっ、ルルーシュが可愛いなって思ったから」

笑いすぎてこっちまで涙が出そうだ。

「〜〜〜〜スザクの馬鹿ッ!!!その小説の犯人は実は被害者の妻なんですよ!!それじゃっ!!さようなら!!」

「えっ、ちょっ、待っ!!これ前後編で意外と面白かったのに〜!!それホントッ!?」

僕の声も聞かず、彼は廊下の向こうへと飛び出して行ってしまった。
ぽつんと図書室に取り残された僕の手には、ネタバレされたミステリー小説が一冊。
でも、まぁいいか。
また他の本を早く借りに来よう。
そうしたらきっとまた、彼にも会える。






どうしよう。初めて、名前呼び捨てで呼ばれた。
ルルーシュってすっごく自然に。
恋人同士だから……だよな?
俺も勢いで先生のこと名前で呼んだけど……よかったかな?先生、気にしてなかったよな。これからも呼んでいいのかな。俺、認められたんだよな。
先生の恋人で、いいんだよな。
口に慣らせるように俺は何度も何度もスザクと呟きながら家路に着いた。
嬉しさで溢れそうになった涙は、きっとレンズ越しで気付かれてはいないはず。
ルルーシュという自分の名前が大好きになった。






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