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GEASS
手と手が重なっても、ロマンスなんて生まれやしねぇ。
お坊ちゃまスザクと執事ルル。出会い編。






「私たち、別れましょう」

それはまだ夜風が冷たい春の始め。
あたたかいシチューが、学校から帰って来た俺の身体を癒した。
そんな普通の家族の、平凡で平和な食卓での母の言葉。

「………、………はぃ?」

もう一度の意味を込めて、そっと人差し指を立てる。

「私たち、別れましょう」

「いや、だからそういう意味じゃなくて!!」

大声を上げながら、机を思いっきり叩く。
母はさして驚いてもいない様子で、ワインを一口啜った。

「じゃあ、どーいう意味?」

自称永遠の乙女。この母と話すのは大概神経を使う。

「どーいうって……とりあえず母と息子の会話じゃないでしょうって話」

もうどっちでもいいから早く帰って来てくれ。俺は心の中で必死に妹と弟の名を叫んだ。
……ダメだ。彼女たちは今、従姉妹の家に遊びに行っている。

「母と息子よー。大事な息子を旅立たせるって話だもの」

「いつからそんな話に……っていうか、旅って……」

「旅って言うかー……」

もう一口、母がワインを啜る。赤紫の液体が喉元を通っていく。
母の言葉の続きが気になるあまり、俺は身を乗り出して彼女の顔を見つめていた。
すると、母は笑いを零した後、言葉を紡いだ。

「お父さんの所に行ってほしいの」

「断じて断る!!!!!!!!!」

あんな父親のところなんて、死んでもいかないぞ、俺は!!






「なぁースザクーこの後お前も来るだろー?」

卒業式の後、なんやかんやと流れに呑まれクラスの打ち上げに参加した。
中学生の打ち上げなんてたかが知れている。
だが空気を壊すのも趣味ではないので、とりあえずは楽しそうに振舞った。

「ううん。ごめん、行けないや」

眉尻を下げ、困ったように答えると、友人も納得したのかあっさり身を引いた。

「そーだよな。悪い」

「こっちこそ、折角誘ってくれたのに。ごめんなリヴァル」

「高校行っても連絡来れよな」

「当たり前だろ。っていうかどうせ家だって近所なんだし、何かと会うだろ」

「ま、そーだな」

じゃ、と踵を返して彼はクラスの群れの中へと消えていった。

(枢木って、あれだろ。親が金持ちだからさ、馬鹿だけどあんなイイトコ行けたんだろ)

(じゃなきゃ無理だって。あいつ学年末の成績俺より低いんだぜ。出来んの体育だけ)

(えっ、そうだったの?知らなかったーショック)

(お前狙ってたの?)

(だってお金持ちだし、優しいし、顔カッコいいし)

(うわぁー女子ってヤだなー)

クラスの連中が、自分をどう見ているのか、そして笑っているのかくらい知っている。
僕はそこまで『馬鹿』じゃない。
お金持ちなのは父親で、僕じゃない。
そこまで自惚れちゃいない。
すっかり日の沈んだ空を見上げ、大きく溜息を吐いた。
家に帰ろう。






帰る家が無くなった。
そういうと語弊があるな。
正しくは、帰るべき家から追い出された。強制家出。
いつの間にか俺の部屋は蛻の殻で、家具も何もかも全てが父親の巨大豪邸へと送られていた。
理由?そんなの聞く暇もなかった。
ただのあの二人の思い付きだろう。何せ面白いかどうかで全てを決める人間たちだ(彼らが別居をしているのは、母が別居するのが面白そうと言ったからだ)
あぁ、哀しいかな。
結局最愛の妹と弟にお別れも言わずに、俺は流浪の民となってしまった。

「ナナリー……ロロ……」

学生服と学生鞄、そんな身一つの状態で思わず夜空を見上げ呟く。
まずい。なんか泣きそうだよ、俺。
……もう哀しいのか悔しいのか分からないのに、なんで腹は減るのだろう。
こんなことなら、きっちりとあのシチューだけでも頂いてくるんだった。
どれだけ歩いたのか知れない。
ただ、父親の家と反対方向に進んで、数時間。

「母さん、俺はもう疲れたよ………」






「……ナ、ナナリー……ロロォ……」

秀麗な顔を歪ませながら、家の前に座り込んでいる超絶美少年は誰かの名を呼んだ。
この寒いのに、どうしてこんなところで寝ているのだろう。というより、どうしてこんなところで寝ていられるのだろう。
いや、それよりも自分は彼をどうするべきなのだろう。
見たところ、学生。多分同い年。

「君ぃー起きてーここ僕の家なんだけど……」

ゆっくりと揺り動かすと、頭が微かに動いた。

「あぁ!?」

ザ・低血圧!!
しかも僕以上に酷い。顔が鬼の様な形相になってる!!
背中に寒気が走り、思わず自分の否でもないのに謝りそうになる。

「いえ、だからココ僕の家の前。外。君が外で寝てるの!!」

「はぁあ!?」

もう誰か助けて。ヘルプミー。この人超怖い。

ぐぎゅるるるるるる

その時、突然大きなお腹の音がした。
少年を見ると、彼自身もその音で覚醒したのか、顔がどんどん赤く染まっていく。

「お腹、空いてるの?」

「チッ」

あからさまに舌打ちされてしまった。しかも睨まれてる。

「うち、来る?ココだし」

彼は門の前に座り込んでいたくせに、ココが一つの家だと気付いていなかったようだ。
庭の向こうに見える屋敷を見て、目を丸くしている。

「ココ、お前の家なのか?」

「っていうか、枢木財閥の家」

その名を聞いて、彼は少し反応した。
やっぱり知ってるよなーっと、ちょっと残念がった自分がいた。

「枢木財閥か……だったらブリタニアカンパニーと五分五分だよな……」

あれ?予想していた反応と違う……何、なんかすごい恐ろしい笑みを浮かべているんだけど。こう、悪戯好きの子どもが新しい玩具見つけた感じ。

「あの、君、さ………」

「俺を雇わないか?」

「は?」

「雇うのはお前じゃなくて構わない。枢木ゲンブ社長に話を通してくれ」

「え、あの、ちょっと……」

「まさか俺が枢木財閥に人脈を張り巡らすとは、よもやあいつも思うまい!!勝てる!!これで漸くあいつに勝てるぞッ!!!ふっはっはっはっはっは!!!!」

人の制止も聞かずに、勝手に盛り上がった少年の高笑いが春の夜空に大きく響き渡った。






「誰が執事にしろと言ったぁあぁあああ!!!!????」

「だってまだ高校生でしょ。社員なんて無理」

「だからって別の仕事があるだろうがぁあぁあ!!!!!」

「君は僕の専属執事。枢木ゲンブの一人息子。この春から高校生一年生、枢木スザクって言うんだ。よろしくね」

「………………」

「ほら、ちゃんと返事して。ルルーシュ・ランペルージくん」

「………わかった」

「違うって。返事は常に、イエス・マイ・ロード」

「チッ………、イエス・マイ・ロード」

この日から、僕らの不思議な主従関係が始まった。






Title by "207β"

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