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GEASS
黒き空に眠る
2008年クリスマス小説。
天使とか出て来るめっちゃパラレル。
子供みたいな稚拙な恋で、なんか切なくなってくる少し不思議な物語を目指して。






「ねぇ、スザク」

鈴の鳴る様な声で名を呼ばれ、スザクと呼ばれた少年は振り返った。

「なんだい?アーニャ」

彼はそう言って、寝転んでいる桃色の髪の少女の指差す方向へと目をやった。
二人の眼下に映るのは、人、人、人。
愚かしい人間達が群れ、住まう穢らわしい世界。
隙間から少し覗き込んだだけで、彼の頭の奥には鈍い痛みが走った(スザクはここにいる誰よりも感覚が鋭い)

「大丈夫?」

アーニャの大きな瞳が心配そうに、彼の顔を映した。

「大丈夫だよ。で、どうかしたの?」

言いながら、地面に寝そべる彼女の横に腰を下ろした。
花の香りが鼻孔を擽り、彼の神経を落ち着かせた。
花は良い。彼は常日頃からそう感じている。
言葉さえ発さないが、彼らの心を満たしてくれる必需品だ。
下界の様な爛れきった生活など真っ平だが、彼らにとってみれば、天界暮らしというのはなかなかどうして、退屈で窮屈でつまらないものなのだ。
だから人間観察をして、日がな一日暇を潰しているというわけだ。

「あの子……可愛い」

アーニャが顔を綻ばせながら、呟いた。
普段怖いほどに無表情な彼女が、感情を目で分かる程に露にすることは大変珍しい。

「へぇー……」

彼女の細く白い指を追ったその先。
視界に捉えた人物に、彼は初めての恋に落ちた。






闇とは、日常生活においてあまり感じたことはないが、こんなにも美しい黒なのだろうか。
初めて彼の姿を目にした時、ジノは真っ先にそう思った。
人間離れした美しさとは、よく言ったものだ。
天界にでさえ、これほどの美貌を持ち合わせている者はいないだろう。

「おいジノ。さっきから人の顔ばかり見てなんだ?何か付いてるか?」

ジノの横に立っている黒髪の少年が、その美しい顔を少し歪ませながら、言葉を発した。

「えっ…な、なんでもないよ。やだなぁルルーシュ」

狼狽するジノを、訝しみながらも、ルルーシュはすぐに視線を手元に戻した。

―――ちょっと買い物に付き合え

人付き合いの嫌いなルルーシュが、数少ない友人の中からジノに声を掛けたのは、HRが終わってすぐのことだった。
一瞬戸惑ったジノだが、不信感や怪しさよりも、好奇心や興味が勝ってしまった。
そのため放課後に野郎二人でショッピング、というなんともしょっぱい現在に至る。
しかもルルーシュが向かった先は、街の小さな雑貨屋。
彼女にでも何か買ってあげるのかと思ったが、残念ながら彼に恋人などいない(なりたいと思っている女子は、ごまんといるが)
では、この気丈でプライドの高い彼が、商品棚の前でかれこれ1時間も悩むような相手とは一体誰なのか。
ジノは容易に想像出来た自分に、若干腹が立った(と同時に一抹の期待を抱いていた自分を呪った)

「…あー…ナナリーにはどれが似合うだろう。この熊のぬいぐるみのストラップも可愛いが、こっちの蝶のモチーフも捨てがたい……」

二つの品物を手に取り、見比べながら恍惚とした表情を浮かべる友人に、ジノは内心引いていた。
大分免疫は付いたが、やはりいくら顔が良くても、男にはやって良いことと、悪いことがあると思う。
ルルーシュとつるむようになれば分かることだが、彼の世界は妹を中心に回っている。
誰とも恋人関係にならないのも、あまり人と関わらないのも、全ては愛する妹のため。
だがこれは決して、妹の望んだことではなく、ましてやルルーシュ自身も自己犠牲に酔っているわけでは決してない。
周りが何と言おうと、ルルーシュは生きたいように生きている。
ただそれだけだ。

「でも何で?急にプレゼントなんて。確か妹さんって、実家に住んでるんだろ?」

冷静さを取り戻し、ジノは尋ねた。
いろいろ言いたいことはたくさんあるが、無駄なことはしない主義だ。
かつて彼が話してくれたことを思い出し、疑問をぶつけることにしたのだ。

「―――馬鹿かッ」

鼻で笑いながら、そう答えられた。
以前彼は、母と身体の弱い妹を田舎の実家に残し、都会の高校に通うため自分は単身上京してきた、と語ってくれたはず……とジノは自分の記憶を改めて確かめた。
ただ言われるだけというのは、性に合わない。
しかし黙っているジノを見かねて、即座にルルーシュが発した言葉に彼は自身の耳を疑った。

「もうすぐクリスマスじゃないか」

たっぷり数秒の間。

「……………は?」

度肝を抜かれるとは正にこのことか、と頭の片隅で冷静に感じた。

「クリスマスには、ナナリーに会いに行けるからな。楽しみだ。早くナナリーの喜ぶ顔が見たい」

開いた口が塞がらない状態のジノは放置で、正にルンルンとバックに花でも散らせていそうな様子のルルーシュは、未だ握っている品物を見比べながら、そう遠くない未来に想いを馳せていた。

「……って、クリスマスなんてまだ後一ヶ月も先じゃん!!」

漸く意識を浮上させたジノは、店内のカレンダーを指差しながら喚いた。

「……………あぁ?」

上目遣いなんて、可愛いものじゃない。
まるで虫けらを睨むような、いやむしろ目で人が殺せるなら確実に死んでいるだろうと思える視線でジノは射抜かれた。そのうえ声も一オクターブほど下がっている。

「す、すみません」

反射的に謝る自分に、生物としての本能をジノは感じ取った。

「分かればいい。では、こちらとこちら、どちらがいいと思う?」

先程の品物二つを顔の高さまで上げ、小首を傾げながら、ルルーシュは史上最高の笑顔をジノに向けた。
悔しいが……小動物には弱いのだ。





ルルーシュの満足いくプレゼントが買えたのは、あれから1時間後。
帰り道はもうすっかり暗くなり、冬の到来を告げる冷たい北風が、二人を急かした。

「でも結局二つとも買うんだったら、あんなに悩む必要なかったじゃん」

並んで歩く、自分より少し背の低い友人にジノはそう告げた。

「いいか?何をプレゼントするかが重要なのではない。プレゼントを贈るためにどれだけ悩んだかが、重要なんだ」

今までの経緯を全て撥ね飛ばすような、詭弁。
だが普段は眉間に皺ばかり寄せている彼が、嬉しそうに顔を綻ばせているのだから、喜ばしいことなのだろう。
人が笑っている姿は、とても素敵なことだとジノは常々思っている。
ルルーシュは自分を見下ろしながら、ニヤついている悪友の脛を軽く蹴飛ばした。

「痛ッ!!」

「お前が俺を見下ろすなんて百年早い」

その時、突然耳を劈く様な轟音が町中に響き渡った。
それと同時に地面は大きく揺れ、空はどす黒い巨大な暗雲に覆い尽くされた。
ジノはバランスを崩したルルーシュを支え、体勢を低くして身構えた。

「本気、なのかよ……」
「…えっ…?」

ジノはルルーシュに周囲の様子を悟らせないように、彼を強く胸で抱きしめた。
だが気付いた瞬間にはもう、そこに普段通りの街並みは広がっていなかった。
建物は崩れ、木々は倒れ、彼ら二人以外の人間が皆消えていたのだ。

「な、何があったんだ?ジノ」

ルルーシュが苦しそうに身動ぎながら、ジノに尋ねた。

「ごめん…ルルーシュ…もうちょっとだけ待っ、」

「残念ながら、もう待てないわ。ジノ」

いるはずのない人の声が、ジノの声を遮った。
びくりと肩を揺らし、ジノはゆっくりと後ろへ振り返った。

「みーつけた」

いるはずのない人とは、正に人間ではないということなのだろう。
そう、ジノの驚愕に見開かれた視線の先は、空中。
赤いワンピースに身を包み、紅い髪を揺らし微笑む少女は、平然とその身を空中に浮かばせていたのだ。

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