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GEASS
下へ下へと赤き蝶
枢木先生と生徒ルルーシュくんの青い春な恋模様。続編。
1万打リクエスト小説。
「短編の「上へ上へと黄金蝶」のスザルルで、恋人の段階(キス止まりでいいんで)をどう踏んでいくか苦悶するルルとあっさりと段階を進めしまう枢木先生を!!!」
「『上へ上へと黄金蝶』の続編が読みたいです!」








人というのは兎角恋をすると変わるもの。
その変化の在り方は割と様々だ。明らかに顔や姿や態度に表れる人がいれば、僕のように「なんか雰囲気変わったね」くらいの人もいる。
こんな年にもなってそう指摘されたのは、恐らく4月の最初。
2年生のとあるクラスの授業を受け持った時から、と記憶している。

「ルルーシュ・ランペルージ」

窓際の席で、つまらなそうに授業を受けている少年に何故だか目を奪われた。
今思うと、きっとあの瞬間から僕は彼に恋していた。
それから彼の姿を見かけると、自然と目が彼を追うようになっていた。
すると、不思議とよく目が合った。
もしかしたら彼も、僕のことを見てくれているのかもしれない。そんな淡い希望と期待を胸に、何でもない日々を過ぎていった。
そして結果想いは身を結び―――

「マンネリ化してる気がする」

「………あんたいつの間に彼女なんて作ってたのよ、スザク」

隣に座る同僚が、僕の独り言に珍しく反応してくれた。
たった3ヶ月で、交際というのはマンネリ化してしまうのだろうか。少なくとも僕にそんな経験はない。
男と女で、しかも同世代であれば、メールして電話してデートしてキスして………うん、まぁ出来ればその先も。出来ることはたくさんある。
というよりむしろ3ヶ月なんて一番楽しい時期のはずだ。
でも僕らは男同士で、しかも先生と生徒で………障害がありすぎる。
誰かに見られるわけにもいかないから、一緒に帰ることなんて出来ないし、そもそも帰る時間も違う。
街をデートすることだって不可能だ。うっかり関係者に見つかりでもしたら、僕らの未来に大きく関わってしまう。
僕は彼のことを本当に大事にしたいと思っている。
いっぱい一緒にいたいし、その時間は堪らなく大切だけど、僕の一時の感情で、彼の人生をめちゃくちゃになどしたくない。
僕は彼を幸せにしたい。
もし僕の手で出来なくとも、彼には幸せになってもらいたい。

「ねぇ、どうすればいいと思う?」

話に食い付いてきてくれた同僚の方へと、顔を向ける。

「あんた話の前後を言わないで、いきなりそんなこと言わないでよ」

横に座る同僚、同い年でしかも同期の紅月カレンは、だるそうにカレーライスをパクついていた。もうすでに彼女の興味は、目の前のカレーに向いている。

「ソースが欲しいわ」

「えっ?カレーにソース?」

「かけないの?人生の半分損してるわよ、あんた」






「えっ!?ルルーシュ先輩の彼女って、年上なの!?」

「馬鹿ッ!!声がデカいッ!!」

向かい側の席に座る生徒会役員で一緒の後輩、ジノ・ヴァインベルグの頭を近くにあった書類で引っぱたく。
食堂からこっそり持ち出したカレーうどんの匂いが、生徒会室に充満していた。

「ちょっ、先輩ッ!!汁、飛んじゃうから!!ってか、今この部屋俺たちしかいないんだから別によくない!?」

「うるさいッ!!お前のワイシャツの染みなんてどうでもいい!!食べ方が汚い奴だと笑われてしまえ!!」

「えっ!?何その、微妙なリアリティ!?」

俺とジノがわざわざ昼休みに、顔を突き合わせて話しているのには、もちろん訳がある。ちなみに俺が呼び出したら、見えない尻尾を振って喜ばれた。
そして話す内容というはもちろん………

「で、彼女の話なんですけどー」

彼女、ということになっている俺の恋人。実はお前もよく知っている先生だ、なんて言えるはずもない。
ただ、俺の秘密を知ったのがそんなに嬉しいのか、元々こういう話題が好きなのか、ジノの目は爛々と輝いている。

「いつから?いつから付き合ってんですか!?」

「………3、ヶ月ぐらい、前?」

「めっちゃ最近じゃん!!どこで知り合ったんですか!?」

「どこって……まぁ……いろいろあるだろ……」

俺が言葉を濁すと、ジノは楽しそうに含みのある笑みを浮かべた。

「ふーん……いろいろ、ねぇ?まぁいいですけど。で、相談って何なんですか?」

女性との正しい付き合い方?デートの定番スポット?もしくは誘い方?キスの仕方だったら、俺が手取り足取り教えて差し上げますよ。先輩だったら、実際にやってみてもいいですけど。
つらつらとジノは嬉しそうによく喋った。
元々、俺は誰かと付き合うとかそういう経験が少ない。
ジノみたいな奴だったら、きっと、こんなに悩んだりもしないだろう。先生だって………だって大人だし。それに、恐らく女性経験だって少なくない。

「………不安、なのかもしれない」

「不安?」

ジノの顔が少し驚いてから、神妙な面持ちに変わった。

「ちゃんと相手にされているのか。飽きられてはいないか。それに会える時間も合わないし。大人と子どもじゃ、やっぱり……」

思わず溜息が零れる。

「そっか、先輩でもそんな風に悩んだりするんだ……」

ジノがボソリと呟いた。

「へ?」

「だってさ、ほら。先輩って何でも卒なくこなしちゃうし。そうやって悩んだりしないと思ってた。でも、そんなことないよね。先輩だって普通の高校生なんだから」

それは、あの人に子どもだと思われたくないから。精一杯の背伸びだ。

「………………」

「俺はいいんじゃないかなーって思いますよ。焦る必要も無理する必要もないですよ。だって先輩が好きな人でしょ?絶対先輩のことちゃんと分かってくれてますって」

果たしてあの人は気付いてくれているのだろうか。
俺の臆病な心や、弱さに。

「それは、俺は俺のままでいいってことか?」

それでも許されるだろうか。

「だって先輩みたいな淡白な高校生、今時珍しいんじゃないですか。それにあんまり若さばっかり主張しちゃうと、向こうが付いて来れなくなるかもしれませんしねー」

「?」






雨。むしろ昼間の快晴の方が嘘だったんじゃないかと思うくらいの暴風雨。
傘を持って来るのを忘れ、そのうえ置き傘もしていなかったルルーシュは、昇降口で外の雨雲を見ながら立ち尽くしていた。。
最終下校時刻の放送が入ったのは、いつのことだったのか………
生徒会室で雑務を強いられていたら、うっかりと寝てしまった。最近の睡眠不足が祟ったのかもしれない。
後輩か、悪友の一人でも引き止めておけば良かったと後悔する。
外はもう、天気の悪さなど関係なく真っ暗だ。

「チッ」

「なーに、舌打ちしてるの?ルルーシュくん」

外を睨みつけながら仁王立ちしていたルルーシュの肩に、大きな手が添えられる。

「きゅ、きゅりゅりゅぎっ!!せん、せっ!!」

驚きから上手く喋れなかったルルーシュを見て、少し高い位置にあるスザクの顔に笑みが浮かんだ。

「うん。きゅりゅりゅぎ先生だよ」

馬鹿にされた悔しさで、ルルーシュの顔がほんのり朱色に染まる。
しかし久しぶりに間近で見るスザクの笑顔が、ルルーシュには光り輝いて見えた。目と鼻の先では雨と風が吹き荒れているというのに。

「こんな遅くまで何してたの?もうとっくに、下校時刻は過ぎてるよ」

「生徒会の雑務が終わらなくて」

「あぁーそれでこんな時間」

「それでこんな時間なんです」

二人して昇降口から見える、どんよりとした空を見上げる。まだまだ雨雲は厚く空を覆っている。

「帰れる?」

「傘を持って来るのを忘れてしまって………」

ルルーシュはホールドアップの姿勢を取り、鞄以外に持ち物がないことをスザクに示す。

「でも大丈夫です。そこのバス停までなら、走ってもそんなに遠い距離じゃないですし」

それじゃ、とルルーシュはその場から逃げるように駆け出した。
スザクの笑顔は、ルルーシュには眩しすぎた。

「えっ、ちょっ、待っ!!」

昇降口から飛び出した瞬間、ルルーシュは後ろから力強く腕を引かれた。

「ほゎっ!?」

「なんでそんな逃げるように行っちゃうの?」

スザクの癖毛が雨のせいで、ボリュームを失い始めている。
その姿がまるで捨てられてた子犬の様に見え、思わずルルーシュは笑いそうになる。

「雨宿りくらいなら、付き合うよ」

澄んだ瞳が、掴まれた腕が、熱い。
気付けばルルーシュは無意識の内に、首を縦に振っていた。






「やっぱりココなら空いてると思った」

何故保健室の鍵をスザクが持っているのかとルルーシュは若干訝しんだが、スザクが足早に中に入ってしまうので、その後を慌てて追った。

「タオルもあるねー」

一人で呟きながら濡れた白衣を翻し、スザクは未だドアの前に立ち尽くすルルーシュに近づいた。長い白衣の裾が、飛んだ泥で少し汚れていた。
タオルを大きく広げられた瞬間、ルルーシュは思わず肩を震わせ一歩後ずさった。

「逃げないでって。頭拭かないと風邪引いちゃうよ」

柔らかく微笑むスザクの顔が、純白のタオルで見えなくなる。
一瞬不安が過ぎったが、次の瞬間大きな手で頭を撫でられる感触がして、またルルーシュは肩を震わせた。
まるで警戒心剥き出しの捨てられた子猫みたいだと、スザクは内心苦笑した。

「せ、先生の方こそ、は、早く拭かないと……」

「大人は風邪引かないから。だいじょーぶ」

寒気からか、緊張からか自分でも分からない声の震えに、ルルーシュは自分で恥ずかしくなり俯く。
髪を乱暴に拭かれると、視界からタオルの白さが消える。
ふわりと首に回されたタオルごと、柔らかく頬を包まれ上向かされる。冷たいような、あったかいような。

「前髪無いと雰囲気変わるね」

「………先生の髪だってすごく落ち着いてますよ」

前髪を下ろそうとルルーシュが濡れた髪の毛を数本取ると、その手をスザクに掴まれた。
スザクの顔を見つめると、鼻先がくっつきそうなほど近づいていた。濡れた翡翠の瞳全体に、ルルーシュの姿が映っている。

「……いつも通りの、僕の方が好き?」

いつもとは違う低音で、耳元で囁かれる。
耳から体中に熱が浸透していく様な感覚がした。
顔を背けようとするも、スザクの大きな手が頬を挟んでそれを拒んだ。
すると、ゆっくりと口付けられた。
お互い唇から、少し雨の味がした。

「はっ、ふゎっ、せん、せっ……」

だんだんスザクの口付けが深くなり、さすがにルルーシュは息苦しくなって、スザクの固い胸板をなけなしの体力で押し返そうとした。

「……ルルーシュくんさ、僕のこと、もしかして怖がってる?」

「ほぇ?」

唇を離すと、つーっと、二人の間を銀糸が繋いだ。スザクの濡れた唇が、見上げていたルルーシュの羞恥を煽る。

「さっきから逃げてばっかり」

「そんなこと……」

ない。そうは言い切れなかった。
嫌われるのが怖くて、いつも強がって。何も出来ないつまんない奴だとも思われたくなくて。

「怖いのは、先生じゃなくて……」

「何が怖いの?」

甘い声で囁かれる。

「嫌われるかもしれない、自分」

「僕は嫌わないよ。どんな君も。じゃなかったら、こんなことしない」

つーっと、ルルーシュのワイシャツの裾から大きな手が入り込む。
冷やりとした感覚に、一瞬眩暈がした。

「ちょっ、先生ストップ!!手!!」

「嫌?」

「嫌………というか……」

小首を傾げ聞いてくるスザクに、ルルーシュは流されそうになる。
男の目をしてる。恐らく彼は一度受け入れたら止まらない。

(俺はいいんじゃないかなーって思いますよ。焦る必要も無理する必要もないですよ。だって先輩が好きな人でしょ?絶対先輩のことちゃんと分かってくれてますって)

簡単に進めたくない。ここで嫌われたら、どうせそれまでだ。ただの下らない意地だとしても、自分らしさとは―――

「はい。今はまだ、嫌、です」

ルルーシュは、あくまで気丈にそう言い放った。
その真っ直ぐな紫の瞳を受け、スザクの頭を同僚の言葉が駆け巡る。

(マンネリ化とか言っちゃうなら、とっとと一回ヤっちゃえば?そしたら身体の相性も分かるし、諦める時にも吹っ切れやすいじゃない。それにね、年下ってなんだかんだ言って、強引にされたいものでしょ。年上が引っ張ってあげなきゃ。意外と向こうも待ってるかもしんないわよ)

「………だよねー。強引とかそもそも僕向いてないし。教職者としてあるまじき行動だよね。ごめん」

スザクはルルーシュからあっさりと離れ、子どもみたいな笑顔を浮かべて、ルルーシュに謝った。

「コーヒーでも入れるよ。適当に座って。お喋りでもしようか。それからだと思わない?」

慣れた手つきでコーヒーメーカーを動かすスザクを、ぽかんとしながらルルーシュは見つめていた。
あまりにもあっさりとしすぎているスザクの引き際に、自分のしたことは正しかったのだろうかと、ルルーシュは首を捻りたくなる。

「まぁまぁ、適当に座って」

まるで自分の家の様に、スザクはソファを顎でしゃくる。
スザクの雰囲気は先程までの大人の男、のようなものからただの同世代の少年のようなものに変わっていた。
わざとルルーシュに合わせているのか、それともこれが素の彼なのか分からなかったが、ルルーシュは安堵の息を漏らした。

「はい」

「あ、ありがとうございます」

あたたかなコーヒーを渡され、手の温度を高める。自分の手が氷の様に冷たくなっていたことに、ルルーシュは驚いた。

「敬語、止めにしよっか」

向かい側のソファに座り、身を乗り出すようにしてスザクは口を開いた。

「ど、どうして?」

「だって僕たち恋人同士じゃないか」

当たり前のことと言えば、当たり前なのかもしれないが。あまりにもきょとんとした顔でスザクに言われ、ルルーシュは呆けてしまった。

「ま、まぁそうですけど……」

だがそれは形だけ。ルルーシュには未だそういう引け目がある。

「会えもせず、中々話も出来ない、ましてや自分はキス以上は拒んでしまう……そんなの恋人同士じゃない?」

「ち、違います!!俺がキス以上が嫌なのは……、その……恋人としてまだ全然段階も踏んでないのに、い、いきなりそういうことやって……こう、先生に軽い奴って思われたくないからで……」

自分の思っていたことを見事に言い当てられ、ルルーシュは赤面しながらも弁明する。

「そんな風に思わないよ。だって僕、君のこと好きだし」

「そんなのいつ変わるか分からないでしょう!?」

思わず声が大きくなり、ルルーシュは慌てて口を押さえる。

「人の気持ちなんて、いつ変わるか分からないし。ましてや俺と先生は年の差だってあるし。男同士だし。先生は女子からだってモテるから、俺のことなんて、もしかしたらただの興味本位で……」

そこでルルーシュは口を噤んだ。スザクが鋭い目で、自分を見ていることに気付いたからだ。

「……そんな風に、思ってたんだ」

スザクは、何度もルルーシュに「逃げないで」と言った。その腕を掴んで引き止めた。身体を引き寄せ、抱きしめた。柔らかく、包むように心配してくれた。
逃げていたのは、自分の方だ。
悪い方、悪い方へと考えて、卑屈になっていたのはルルーシュ自身で、スザクはそんな彼を丸ごと好いてくれていた。

「僕のこと、信じられない?」

信じていなかったのは、スザクではなく、自分。
ルルーシュは思いっきり首を横に振った後、もう一度真正面からスザクの瞳を真っ直ぐに見つめた。

「俺のこと、本当に好きですか?」

「嘘偽りなく。未来永劫。君をずっと愛してる」

屈託のない笑顔で、スザクはそう言った。






「今度うち、来る?」

ほっとしたのか、微笑みながらコーヒーを啜る年下の可愛い恋人に尋ねてみた。

「先生の、家?」

先生と呼ばれることも、何だかんだと嬉しいけど、やっぱり名前で呼んでもらいたい。でも、今じゃなくてもいいかな、とも思ってる。
徐々に慣れていけばいい。焦る必要なんてない。
僕らは僕らなりのスピードで、前に進めばいいって今やっと分かったんだから。

「狭いし汚いけど、掃除すれば二人でいても平気だと思うし……」

困った顔をしている。明らかに困った顔だ。
最近分かったこと。彼は意外とネガティヴで妄想癖がある。

「い、いきます!!」

力強く返事をする様がまた可愛らしい。

「じゃあ決定!!……そう言えばさ、カレーにソースってかける?」

「え?うちはスパイスから作りますけど……ソースですか?」

「あーかけたことないんだ。人生の半分損してるらしいよ」

それじゃあ今度君が来る時は、美味しいカレーライスを食べようか。
二人でこれまでよりもっとたくさんの幸せを得て行こう。






Title by "207β"






意外とこのシリーズが人気で驚きました。
この前はルルーシュ視点だったので、今回は枢木先生視点だけにしようかとも思ったんですが、折角なので悶々してるルルーシュくんとその友達もお呼びしました。ついでに紅月先生も←
今回もリクエストからどんどんかけ離れたものになってしまいましたが、リクエストして下さって本当にありがとうございました。
これからもルルとスザクをあたたかく見守って下さい。







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あきゅろす。
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