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GEASS
救えない掬えない巣食えない






「随分と機嫌が良さそうだな、ゼロ」

「そうか?」

チェス盤の上のポーンを動かす。星刻の眉毛がピクリと動いた。

「何かいいことでもあったのか?C.C.の姿は見かけていないが……」

「あの女は今日本だ」

「いつの間に帰ったんだ?」

「俺の知らない内に勝手に帰っていたんだ。さっき連絡が来た」

そう言うと星刻が珍しく声を上げて笑った。

「お前が中々相手してやらないから拗ねたんじゃないのか?」

「そんな可愛気のある女じゃないよ、あいつは」

やはり一筋縄ではいかないな。
チェスで負けたことなどルルーシュを相手にした時だけだというのに。この男とやる時はいつも接戦だ……だからこそ面白いのだが。

「では今日はC.C.がいないから上機嫌なのか?」

「それもある。だが……それだけではない」

星刻の口角が微かに上がる。ビンゴ。

「なぁ星刻。お前は自分が危険なことをする場合、大切な人をどうする?傍に置いておくか?それとも……」

今、目の前の男の脳裏には、あのか弱そうな幼い少女の姿が浮かんでいることだろう。顔は良いのに勿体無いと常々思う。

「大切な人に危険が迫る場合がある。ならば、私はきっとその人を置いていくだろう」

「……やはりお前も……ヒーローになるには少々頭が良すぎるな……チェックだ」

持ち駒をを掲げ、星刻に微笑みかけた。

「……これでゼロの5勝4敗だな。次の勝負はいつになる?」

相変わらず負けず嫌いな男だな。平静を装いつつもそそくさと星刻はチェス盤を片付け始めた。
俺はジャケットを羽織り、身支度を始めた。

「暫く日本に戻る。後片付けと、本来の目的を早急に進めたいからな」

「それが上機嫌の理由か」

「それだけではないよ。大事な弟が音楽留学をするらしいんだ。パリに。すぐに有名になるぞ」

「お前の弟か。それは恐ろしいが、聞いてみる価値はありそうだな。公演でもあれば教えてくれ」

「あぁ」

あともう一人の弟の方も、きっと上手くいっているだろう。
俺はチェス盤の入ったキャリーケースを持ち、部屋を後にした。

「あっ、そうだ星刻」

「なんだ?」

「本当に無くしたくないものなら、絶対に離すなよ」

中華連邦独特の重厚な造りの扉が後ろで閉まる。
俺はいつも失くしてから気付く。それが絶対に離してはいけない大切なものだったことに。





朝日が眩しい。コーヒーの香りも漂っている。誰が朝食の準備をしてくれているのだろう。ゼロが帰って来たのだろうか。

「おい……起きろ」

あぁ頼む。お願いだ。もう少し寝かせてくれ。昨日は仕事であまり寝ていないんだ。

「おい」

そう。仕事……仕事で、確か、枢木スザクが……来…て…?

「枢木スザクッ!?」

「残念だったな。私は枢木ではないぞ」

飛び起きると目の前にはC.C.がいた。ベッドに腰掛け、優雅にコーヒーを飲んでいる。

「ッ、C.C.!?」

「悪かったなぁー枢木スザクじゃなくて。そんな嫌そうな顔をするな。そんなに奴が恋しいか?」

「ふざけるな。俺は驚いただけだ。お前が何故ココにいる?」

新しい玩具を見つけた子供の様な、そんな笑みを浮かべるC.C.を睨み付ける。
またこのネタで暫く笑い者にされるのか……

「迎えに来た方が良いかと思ってな。ゼロもそろそろ来るんじゃないのか?」

こんな醜態を家族にまで晒さなければならないなんて屈辱極まりない。

「で、枢木はどうした?」

「気になるのか?」

面白いものを見るように目を輝かせるC.C.をもう一度強く睨み付ける。

「こりゃ失敬。枢木はいなかったよ。私が来た時にはもう……」

「そうか」

備え付けのデジタル時計を見る。まだ朝と呼べる時間だ。あいつは一体何時に帰ったのだろう。まさか学校に行くためじゃあるまいし。

「やっぱり淋しいんじゃないか」

「馬鹿が」

俺は立ち上がり、シャワールームへと向かった。

「……ったく、寝ている間に一人で残していくなんて…あの男も、男としてまだまだだな」

C.C.はそう言って、一人には広すぎるベッドに寝転んだ。






「漸くまともに学校来る気になったのかと思ったのに……また、重役出勤?」

昼休み。たまたま廊下で会ったカレンに声を掛けられる。
ちょうどいい。知り合いを探していたところだ。

「なぁ、ジノ・ヴァインベルグって知ってるか?」

「はぁ?」

カレンが心底嫌そうな顔をする。

「いいから」

「部活で一緒だから知ってるけど……一体何の用?私はあんたの面倒ごとになんか巻き込まれたくないわよ」

部活?カレンは確かバスケ部だったな。

「ちょっと聞きたいことがあるだけだ。別に喧嘩しに行く訳じゃない」

カレンが訝しげにこちらを睨む。

「……じゃあ教えるけど、本当に不祥事なんて起こさないでよ」

渋々カレンはジノのクラスを教えてくれた。
カレンが心配してくれたのは、彼のことか。それとも自分のことか。どちらのことかは分からないけれど、自分にもまだ友達と呼べる人間がいたようだ。

「ありがとな、カレン」

カレンは大きな目を更に広げ、丸くした。

「……ばーか。急に素直になってんじゃないわよ」






教室に行くとすぐに分かった。高身長なうえ自前の金髪に整った顔立ちなんて、黙っていても目立ってしまう。

「ちょっとヴァインベルグくんに用があるんだけど」

ドアの近くにいた女子に声を掛ける。

「……え?」

「部活のことで連絡があるんだ」

爽やかな笑顔という仮面。その女子は疑いもしないで、嬉しそうにジノに話しかけに言った。まぁ当の本人は俺の顔を見て不審を露にしていたけれど。

「……何ですか?」

野郎の前では笑顔も作んないのか。
俺だってこんなことしたくてしてんじゃねぇんだよ。何で俺がこんなイライラしなきゃいけないんだ。

「部活の連絡をさ、友達に頼まれたんだ。だからちょっと、屋上まで来て欲しいんだけど」

こんなニコニコして喋るなんて、まるであの双子みたいだ。

「友達にねぇ……分かった。行けばいいんだろ」

「物分かりが良いようで嬉しいよ」

「お褒めに預かり。でもさ、君の名前くらい教えてくれてもいいんじゃない?」

「枢木スザク、」

そう言うとジノが息を呑むのが分かった。

「それが俺の名前」






Title by "水性の魚"

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あきゅろす。
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