REBORN
恋なんかじゃない (ヒバ←ツナ←骸)
ツナほぼ不在。ちょっと骸さんがイっちゃってます。
「沢田綱吉」
呼ばれるはずのない声に呼ばれた。驚いて振り返ってしまうなんて、大概俺も大バカだ。
次の瞬間にはもう、俺の世界は漆黒の闇に包まれていた。
あの草食動物、沢田綱吉が姿を消してから今日で10日らしい。
学校帰りに何者かに拉致されてそれ以来消息不明。昨日とうとう僕にまで助けを求めに来た、自称彼の右腕がそう言っていた。
「……で、君がその犯人なわけ?」
「クフフ、ご想像にお任せしますよ」
厄介なことに今僕の目の前には、犯人と思われる人物が何とも不愉快な笑みを浮かべて佇んでいる。
「自首でもしに来たわけ?それなら僕が赤ん坊に通報してあげるよ。報酬が出るからね」
言い捨ててから僕は手元の書類に視線を戻した。すると目の前の変質者は、これ見よがしに大きな溜息を吐いた。
「彼が姿を消してしまい、君がどうなっているのか楽しみにして見に来たというのに……」
「……はぁ?あの草食動物がいなくなったぐらいで、僕が動揺するとでも思ったの?」
呆れつつそう言うと、骸は机を力一杯叩いた。顔を上げると、奴の顔が眼前にあった。
「そういうの最高にムカつくんですよね」
焦点があってなく、殺気と言うよりも軽蔑が込められた眼差しだった。だが同時にこの僕ですら、動けなくなるほどの威圧感を感じた。
「な…に……?」
「だからムカつくって言ってるんですよ。君に笑いかける彼も、彼の好意が分かっていて尚素知らぬふりをしている君も」
「……何を言ってるの?」
「だから、君は気付いているのでしょう?君自身が抱いている感情の意味も、彼の君ヘ向ける熱い眼差しの理由も」
いつまでも目を背けているわけにはいかないですものね。
骸は人を見下しながら吐き捨てた。
「君には、関係ないだろう」
「関係ない?そうやって先延ばし先延ばしにするおつもりなんですか?現状を維持していたいと。後輩と先輩、ボスと守護者、劣等生と最恐風紀委員長。今はまだこのままの関係でいたいと」
「………………」
「……おや、だんまりですか?まぁ、事実ですから仕方ありませんね。でも僕はそういうキレイ事が大嫌いなんですよ。おぞましい!!なんと汚らわしい!!それを愛だと思っている君たちに逆に感服しますよ」
「……黙れ」
ようやく声が声になった。僕はこんなにも弱い生き物だっただろうか。どうしてこんなにも弱くなってしまったのだろうか。
骸は鼻で笑ってからこう続けた。
「負け犬がなんと吠えようとも、もう遅いんですよ。君に、いや君以外にもか。誰にでも笑いかける彼のあの姿には虫唾が走るんです。だから………彼の目を抉り出し、耳を切り刻み、鼻を削ぎ落とし、喉を切り裂き、神経を麻痺させて、もう僕以外を感じることの出来ないようにしてやろうと思ったんです」
良いアイデアだと思いませんか?
人の神経を逆撫でさせるあの特徴的な笑い声と共に骸がそう言い捨てた瞬間、僕は無意識の内に奴の胸倉に掴みかかっていた。
「お前、沢田に……何をした!?」
「クフフ……あぁ怖い。ナニ……だと思います?」
「いいから早く言え!!さもないと咬み殺す!!」
僕は激怒のあまり、我を忘れていた。だからこそ骸の素早い動きについていけなかった。気付いたら僕の身体は反転し、床に押し倒されていた。
「粋がっていた割りに、隙が多いですよ」
「黙れ。離せ」
「自分の立場を少々理解したらどうです?」
僕が言い返さなくなると、骸はさも楽しそうに微笑み、また饒舌に喋り始めた。
「僕も最初はそうするつもりでした。でもいざ傷つけようとしても、あの琥珀色の瞳を見たら出来なくなったんです………だから」
そう言って骸は僕の左目を撫でた。ぞわりと悪寒がするのと同時に、以前沢田に言われた言葉がフラッシュバックした。
―――ヒバリさんの瞳って、すっごいきれいな漆黒ですよね。ずっと見てると吸い込まれそう。俺、凄い好きなんです、ヒバリさんの瞳
「彼の大好きな君の瞳を手に入れれば、彼は僕を見てくれると思ったんです。しかもそれを失った君は……ただの生きる屍。何の役にも立ちはしない。なんて愉快なことなんでしょう!!」
「……狂ってる!!」
「はっ、誰が。いいから黙って下さい。君の代わりなんていくらでもいる。もう彼の隣にいるのは君ではない。この僕だ。これは恋なんかではないんです。君らみたいなただのじゃれ合いと一緒にしないで下さい。純粋な愛です。そう、僕は彼を愛している!!この世界中の誰よりも!!誰にも渡さない!!彼の全ては僕のモノだ!!」
じゃあなんで……そんな泣きそうな顔をしてるんだ。
そう思っていたけれど、僕はただ黙って奴に取り込まれる自分の瞳を見つめることしか出来なかった。
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