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REBORN
禁煙宣言 (獄ツナ)





それは麗らかな春の昼下がりでの小さな事件。

「ふっざけんなアホ牛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

「うわぁ〜ん!ツナァ助けてぇ!!」

「ちょっ、ランボこんな所で10年バズーカを……ッ!!」

ドッカァーーーーーン

「「「ぎぃやぁぁぁぁぁ」」」

あぁ…俺としたことが……こんなアホ牛に振り回されるなんて…まだまだ修行が足りねぇな………






「痛っつー!!」

3人とも近くにいたのに、飛ばされたのは俺だけなんて…相変わらず自分はツイていないと思う。だが10代目が巻き込まれなかったのが、不幸中の幸いか。
着いた先は10年後なのだろうが……何処だココは?
誰かの私室だろうか。質の良い家具や調度品が揃えられている。
とりあえず立ち上がり周りを見渡していると、ドアの向こうから足音が聞こえてきた。
この部屋に来られるとまずい。もしかしたら敵地に潜入中なのかもしれないし……身を隠さないと……
慌てふためく俺を他所に、無情にも扉は開かれた。

「…獄寺…くん…?」

「えっ?」

驚いたような声がした。懐かしい心地のするその声はまさか10年後の……10代目?
声のした方へ、ゆっくり首を回す。

「……アッハハハハハ!!」

俺の顔を見て暫し呆然とするも、すぐに堰を切った様に10代目は声をあげて笑い出した。
俺は羞恥から顔が熱くなるのを感じた。

「獄寺くんが任務から帰って来たと思ったら、まさか10年前の獄寺くんがいるなんて!!アハハ!!」

「……そ、そんなに笑わなくても…」

よく見ると10代目の目には涙まで浮かんでいる。
失態だ!!俺は静かに唇を噛み締めた。
しかしやはり10年後の10代目は成長していらっしゃるだけあって、威厳も増し、とてもかっこよかった。たとえ、笑いすぎてむせていたとしても。

「あぁ、ごめんごめん!コレ今獄寺くんに渡そうと思ってたコーヒー。君にあげるね」

「すみません。恐縮です!!」

10代目は俺にコーヒーカップを手渡すと、ゆっくり窓の前の大きな机に座った。
……あれ?なんだ?今何故か……すごく変な感じがした。10代目からコーヒーを受け取った瞬間、何か違和感があった。

「それにしても、君が来るなんて珍しいね。何してたの?」

あっ、もしかして聞いちゃまずいこと?
冗談目かして笑う姿は、まるで悪戯を思いついた子供の様だ。今よりも少し表情が豊かになっている気がする。

「ちっ、違います!!テスト前なので一緒に勉強してただけです!山本の野郎がちょうどよく部活でいなかったので」

「そっかぁ。俺その頃から獄寺くんがいないとダメだったんだねぇ」

感慨深げに10代目は呟いた。

「……え?」

「今でもね、俺全然イタリア語喋れないからさ、獄寺くんにいっつも一緒にいてもらってるんだ」

少し恥ずかしそうに笑う姿は、年上のはずなのに妙な庇護欲を掻き立てられる。しかし重要なのはそこではない。
期待の篭った眼差しで俺は問いかけた。

「そ、それって10代目の右腕が……」

言いかけたところで意識が遠退く感覚に襲われた。もうタイムリミットなのか。
10代目は慌てる俺を優しい瞳で見つめていた。
時が止まって欲しかった。だって一番訊きたいことが訊けていない。

「             」

10代目の口が動くのが見えた。だが、何と言っていたのかは分からない。
……あぁ、俺ってホント……






「痛っつー!!」

「あっ!!お帰り、獄寺くん」

気が付いた時目の前に居たのは、いつもの10代目だった。

「10代目ぇ〜〜!!」

嬉しさで思わず首に飛びついてしまった。

「ヒドイ目にあったねぇ」

いつもの笑顔だ。さっきまでの笑顔に至極そっくりな。

「でも10年後の10代目にお会い出来ましたよ」

「俺も、10年後の獄寺くんに会ったよ」

何か格好よくなってた。と嬉しそうに言われると、何故か無性に腹立たしい。嫉妬なんかではない。断じて。
イライラを止めようと、俺が煙草を取り出し火をつけようとすると

「あっ!!ダメェェェェ!!!」

と叫んだ10代目に箱ごと引っ手繰られた。
今までこんなことはなかったから、俺は目を丸くした。

「えっ?急にどうしたんスか?」

尋ねると、10代目は自分でも起こした行動に驚いたのか途切れ途切れに言葉を紡いだ。

「いや……その…さっき来た10年後の獄寺くんにね、煙草を止めさせるように言ってくれって頼まれてさ」

「俺に?」

「うん。何かね……」






「……で、10年前の俺に頼んだって訳ね。あの頃の自分じゃ煙草止められる気がしないから?」

「いや、その……申し訳ございません」

午後の温かい陽射しを背中に浴びてる10代目はなんとも神々しい。さっきまでの小さな10代目は大層可愛らしかったが、今のこの10代目には敵わない。

「でも良かったね。未来が変わってさ。そのおかげで今じゃ一日3本で我慢出来てるもんね、煙草」

「はい、恐縮です」

今考えると、中学生の内から一日に煙草を箱単位で吸っていた自分が恐ろしい。

「俺の背広にも匂いつかなくなったし」

「いや、もう……本当にすみません」

頭を下げる俺を見て、くすくす笑う10代目をやはりかっこいいなと思ってしまった。あぁ俺はいつまでたっても変わらない。






そうか。これで合点がいった。未来の10代目からは、俺の煙草の匂いが消えてたんだ。それが違和感の正体だったのか。

「まったく、10代目に頼むなんて、俺の奴!!」

「いや、そんな怒んなくても……それに俺もそろそろ煙草止めて欲しかったし」

あまり自分の意見を言わない10代目にしては珍しい発言だった。今日は驚かされてばかりだ。

「……え?お嫌でしたか?臭いとか」

俺は10代目に不快感を与えていたのかもしれない。窺うように聞いてみた。

「いや、それは別に慣れたんだけど。煙草ずっと吸ってると身体に悪いでしょ?そうなるとずっと一緒にいられないじゃん」

徐々に顔を俯けていく10代目の姿は大変愛らしかった。俺の身体を気遣って下さったことも嬉しいが……何よりその後の言葉が嬉しい。

「10代目……」

「ずーっとさ、一緒にいたい……じゃん?ね?」

大きな琥珀の瞳で見つめられたら言う言葉など一つに決まっている。

「はい!もちろんです!!」

あなたと永久に共に。







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