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REBORN
ドッグイヤー (骸ツナ)
レミオロメンのドッグイヤーという歌から想起を得ています。
管理人の独断と偏見により作られているので、見解に相違があるものとご了承下さい。






響く重低音で目が覚めた。
随分地上に近い所を飛行機が飛んでいったようだ。
カーテンが開けたままになっていたせいで、朝日が眩しい。いや眩しいを通り越して、むしろいじめ?暴力?と燦々と輝く太陽に問い質したくなるくらいに。
ずっと昔にリボーンに貰った腕時計を見てみると、まだ朝の7:00だった。どうやら3時間は寝れたらしい。
しかし机に突っ伏したまま寝ていたせいか、徐々に体の節々が痛みを訴えてきた。
首をコキコキ鳴らしてから、伸びをして、ズボンの後ろのポケットに入っている携帯電話を取り出した。




プルルルルル
一回目。出ない。まぁ仕方ない。
プルルルルル
二回目。虚しく響くは無機質なコール音のみ。
プルルルルル
幾度目かのコール音。数えることにはすでに飽きていた。

「…………もしもし?」

受話器を取る音から、たっぷりと間をあけ、懐かしいその声が俺の耳を擽った。不機嫌さを露にしていたけれど。

「あっ、むくろー?」

でも久しぶりに聞く彼の声の心地良さに嬉しくなって、俺は思わず弾んだ声で彼の名を呼んだ。

「俺だけど…」

「間に合ってます」

いや、変な悪徳勧誘じゃないんだから。有無を言わさない言い方に少したじろいでしまう。

「もう!!電話出られるんならすぐに出てくれればいいのに」

おどけた口調でそう言うと、ハァと大きな溜め息が聞こえた。

「…うるさく何度も掛けられたから仕方なく出たんです」

むしろ君の方が「今忙しいのかな?」「また後で掛けようかな?」みたいな気を遣わせるべきでしょう。
骸の言い方は、自分がルールだと言わんばかりだった。

「あー…それは気が付かなかったなぁ」

俺はまさしく棒読みといった調子で言った。こいつに遣う気なんて残念ながら、持ち合わせていない。というよりもこいつにこんなこと言われる筋合いもない。要はお互い様ってこと。

「…切ります。早く用件を言って下さい」

冷たい声でそう言い放たれた。どうしてこいつはこういつも愛想がないんだろう。いい加減素直に喜んで欲しい。

「用件って程でもないんだけどさぁ…」

俺は手持ち無沙汰になってしまっている右手で、机の上のボールペンをくるくると回した。

「用もないのに電話なんてかけてきたんですか?馬鹿でしょう。あなた馬鹿でしょう。またアルコバレーノにどやされますよ」

『おいバカツナ。いつまで仕事さぼってる気だ。3秒以内に仕事に戻れ。さもないと脳天ぶち抜く。3…』

2…1…と言い切る前に俺の耳のすぐ横を通り抜け、椅子にめり込む弾丸と、俺を見下す最恐の家庭教師の顔と声がリフレインされる。
今でも瞬時に思い出される。
それはまだ遠くない過去の、幸せな記憶だから。

「……分かってはいるんだけどねぇ」

俺は動揺を悟らせない様に、出来る限り平常心を保って言った。

「どうかしたんですか?」

もしかしたらそれさえも電話の向こうの相手には、見透かされていたのかもしれない。まったく…変な所で鋭い奴だ。

「え?何?俺のこと心配してくれてんの?ありがたいなぁ。でも大丈夫安心して。俺めっちゃ元気だし」

「そんなこと聞いてませんし、興味もありません」

「久しぶりに朝日とか浴びちゃって。もう一眠りいけそう」

「いつでもそうじゃないですか」

「昨日なんて天気予報とか見ちゃって。久しぶりにお天気お姉さんに会っちゃった」

わざわざパソコンで日本のニュース見たんだ。イタリアはお天気お姉さんいないからさ。一日分の活力が補給されなくてホント困る。

「まったく…楽しそうですね」

完全に人を馬鹿にした声だった。でも、顔に笑みが浮かんでるであろうことは、俺には簡単に予想がつく。



骸は何気にこういう下らない話が好きだ。
何でもない日常。彼が一度も手にしたことのないものの欠片。断片。俺はそれを知っている。持っている。
あいつはそれを羨むことなんて決してなく、いつもただ俺の話を聞いてくれる。
想像するのが楽しいらしい。今までもそうだったから。
自分で手に入れるには、もう重すぎるとかつて哀しそうに目を伏せながら、呟いていた。

「…そういやさ、骸は何してんの?」

一息に喋ってしまったら話が続かなくなってしまった。俺は慌てて話を変える。

「…何してんのって…雑魚マフィアのアジト強襲中に君の電話がかかってきたんですけどッ…!!」

語気が強まる。呆れてるか、もしくは怒ってるか。…おそらく両方。

「あっ、ごめん仕事中か…」

「今、本気で忘れてましたよね?」

「嫌だなぁ…そんなことあるわけないじゃん。でももう終わったんだし、平気なんだろ?」

「君のその無駄な自信には、この僕ですら感服しますよ」

血まみれの海に佇んでいる骸の姿が容易に想像できる。きっと綺麗だと思う。誰よりも紅が似合うやつだから。

「お楽しみのところ悪かったって」

「おや、ようやく理解したようですね」

そんな人を正真正銘の馬鹿みたいに。お前のことなら何だって分かってるって。言わないだけで。

「でも随分と早くからのご出勤じゃん」

「その方が向こうも油断してるので楽なんです」

だからとっとと戻って寝ようと思っていたのに、思わぬ伏兵がね…

「え?誰?それ」

今日一番大きな溜め息を響かせてから

「君のことですよッ!!」

と骸の怒声が迸った。耳を劈く勢いだ。思わず受話器を遠ざける。お兄さんと喋ってる時と同じくらい。あの人はいつでもうるさいから。

「あーもーだから悪かったって!!ご苦労様」

「もう切ります」

こんなにもこけにされるなんて屈辱以外の何物でもない。俺はこけにしたつもりなんて微塵もないんだけど…

「いやいや、ホントちょっと待って!!まだ俺の用件が…」

「だから何なんですか?早く言って下さい。また新しい任務ですか?今度は何処に?北?東?西?南?」

「日本」

俺は即答した。

「…………」

また開くたっぷりとした間。

「あっ、違うんだ。その任務が終わったら旅行行こって話」

「もっと話についていけません」

主語、述語、すべてはっきりと日本人なら日本人らしく順序立ててきちんとした日本語を話して下さい。
なんてイタリア人が偉そうに。…いや実際昔から言われてるけど。

「ドライブ行こうよ」

お前が運転して。俺が助手席座るから。で、俺が地図見ながらナビしてあげる。俺は自信満々にそう告げた。

「ふざけるのもいい加減にして下さい。100歩譲って旅行に行くとしても、君に地図なんて読めるわけないでしょう。自分の学力と正面からきちんと向き合いなさい」

なんだ?これ。中学の担任の顔が目に浮かぶ。何て言うんだっけこう言うの…?

「…デジャヴ?」

「は?」

「いえ、何でもないです」

こんなことしれたらまた馬鹿にされるのがオチだ。

「じゃあいいよ。俺が運転する」

「君いつ免許取ったんですか?」

「先週」

「却下。僕を殺す気ですか」

即答…!?まぁ俺だって元々自信があった訳じゃないんだけどね。
「じゃあ電車で!山か海行って、それで温泉!!」

「温泉?」

「そう日本の温泉は気持ちいいんだよ!生き返る〜って感じで」

「へぇ〜」

お、ちょっと興味持った?

「僕はもう既に何度も生き返ってますから。その必要はありません」

あっ…さいですか。さいですよね。興味なんて微塵もないですよね。

「えー行こうよ!天気だって良さそうだし。俺ちゃんと旅雑誌も買ったんだよ。もう準備はばっちり」

ね?
お願い。気付いて。

「……」

何で。涙が出そうだ。
その時、また耳に大きく息を吐き出す音が聞こえた。

「君はちゃんと酔い止めも持ってくるんですよ。寝不足だと余計心配ですから。すぐに気分を悪くされて困るのは僕ですし。あと旅雑誌も忘れずに持って来て下さいね。車は僕が手配して僕が運転します。あと君はもう少しマフィアのボスとしての自覚を持って下さい。…これでいいですか?」

早口で骸が言い切った。
全部が全部、俺のことを考えてくれている。

「うん!」

俺は元気よく返事した。

「骸、大好きッ!!」

「止めて下さい。虫唾が走ります」

そんなこと言っちゃって、本当は嬉しいくせに。
いつになったら…本気だと思ってくれるんだろ。
別に良いんだけどね。伝えられれば、伝わらなくとも。

そこへ控え目なノックの音がした。

「10代目、そろそろ…」

神妙な面持ちで顔を出したのは、獄寺くんだった。

「うん。分かった。今行くから。あと、ちょっと、待ってて」

あと、ちょっとでいいから。

「…随分と忙しそうですね」

こちらの声が聞こえてきたのか、骸が悪態を吐く。

「まあね。一応ボスだし。でも今日はディーノさんとの会食。骸も一緒に来れれば良かったのにね」

「誰があんなダメ馬と…嫌味ですか?」

雲雀恭弥でも連れて行けばいいんじゃないですか?
相変わらずこの二人は仲が悪い。そろそろ周りにいるこちらの配慮に気付いてもらいたい。

「じゃあ…いってきます」

「えぇ、いってらっしゃい」

「戻ってきたら…すぐに行こうね」

「覚えていたら」

「ダメ。忘れないで。絶対。俺のこと。約束も。ちょっと…ちょっとの間でいいから…お願い俺のこと待ってて」

「…ボンゴレ?今日はやっぱりちょっと可笑しくないですか?」

嘘は吐けない。見破られるから。
でも真実は言えない。おれが信じたくないから。

「俺はいつでも可笑しいよ。じゃあね、またね」

「君、何か隠してますよね?」

「ヒバリさんのおやつ勝手に食べちゃったってこと?」

「もういいです。では、また」

「うん…じゃあ、また。骸……大好きだよ」




ツーツー
と自分から電源を切ったのにも関わらず、この電子音がとても憎らしく感じる。
もう声が聞けないのか。淋しいなんて、思っちゃいけない。
俺はクローゼットから、一番好きなコートを引っ掴んで部屋から飛び出した。






「お電話中に、申し訳ありませんでした」

ミルフィオーレとの会談に向かう車中で運転席に座る獄寺くんが、後ろに振り返りながら謝ってきた。

「全然、平気だよ。俺こそ遅くなっちゃってごめんね」

それよりも前を向いて欲しい。ほら、そこトラックが曲がってきてるよ!!

「どうせ、骸にちょっとちょっかい出してただけだし」

「あっ、あぁ…骸…」

獄寺くんが若干眉を顰めた。未だにあまり骸を好きではないらしい。

「これがさ、終わったら…またみんなで、集まれるといいね」

「……そうですね」

獄寺くんが目を細めて笑った。

「俺が、なんとかするから。今日」

「…10代目…やはり一人というのは危険すぎるかと…」

獄寺くんはいつでも心の底から俺を心配してくれている。

「でもさ、向こうがそうじゃないと納得しないんだし。仕方ないって」

ゆっくりと車がミルフィオーレに指示された建物の前に着く。ココが本部という訳ではないのだろう。
指示されたとおり、獄寺くんには建物の前で待ってもらって、俺は単独で百蘭の元へと向かった。

「じゃあ、また」

「10代目…どうか…」

車の横に立ち俺を見送る獄寺くんの顔は、今にも泣きそうだった。
俺は飛びきりの笑顔で振り返った。

「必ず、帰ってくるから。ちょっと、待ってて」






「って言って来ちゃったんで、早めに切り上げましょうか」

俺は促されるまま、百蘭と向かい合うよう腰かけた。

「そうだね。俺も君に長いさせる気はないし」

百蘭は真意の掴めない笑顔で俺を見ていた。

「あなたのやろうとしてることは全て分かってます。俺と話し合いなんてする気、元からないのでしょう?」

「へぇーそれが噂の超直感か。便利そうだね。哀しい能力のようだけど」

「一言多いですよ」

ニコニコと二人して上辺だけの笑顔を浮かべ合ってる様は、はっきり言って異様だ。
その静寂を壊し、百蘭はゆっくりと胸ポケットから拳銃を取り出した。

「あれ?リングとかは使わないんですか?」

「あぁ…ココは君が何も出来ないようするために、リングとかの力を封じる結界が張り巡らされてるんだ」

でもまぁこれで心臓打ち抜いちゃえば、君だってすぐに動けなくなるから良いんだけどね。



「残念ながら俺は優しい人間じゃないんだ」

「じゃあ独り言だと思って、聞いて下さい」

「ん?何?」

俺は大きく息を吸い込んだ。

「みんな、大好き!!!!!!!」






パンッ

建物から響く不穏な音に獄寺は顔を上げる。

「10…代目…?」

押さえきれない胸騒ぎに駆られて、獄寺は慌てて建物の中へ飛び込んだ。






「ん?コレ何?」

百蘭は、血塗れになって倒れる沢田綱吉の背広のポケットから覗く本に手を伸ばした。

「…日本語?」

ドッグイヤーのたくさん付いた旅雑誌だった。
未来への希望と期待のたくさん付いた、旅雑誌だった。






ボンゴレの声が聞こえた気がした。
思わず後ろを振り返る。

「骸…ちょっと…待ってて」
…ボンゴレ?
どうかしたんですか?
どういう意味なんですか?
僕は…いつまで君を待っていればいいんですか?






俺はいなくならないから。
見てろよ百蘭。
みんな俺のこと大好きだから。
消えていなくなったりなんてしてやらないからな。
今度は大丈夫。
心配ないから。
ほら、空はいつでも青い。
虹の橋をかけてやる。

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