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REBORN
俺の全てを君に (山ツナ)






雨続きの天気の久しぶりの快晴。絶好の試合日和だ。
ココで勝てば、俺たちは学校創立以来の快挙、なんと甲子園の夢の舞台へと立つことになる。

俺ももちろん、そうなったら嬉しい。甲子園にいくのは小学生の頃からの夢だ。
絶対に、何が何でも勝ちたい。
しかも今までの野球人生で初めてもらった4番サード。みんなの期待を裏切ることなんて出来ない。

「がんばってくださーい!!山本さーん!!」

「応援してるよー山本くーん!!」

観客席から笹川とハルの声が聞こえる。
いつもは聞こえる…ツナや獄寺の声が今日は聞こえない。
今日は来てないのか…ハァと大きく溜息を吐く。



試合も進み9回の裏。俺たちの攻撃。
ここまで何とか2−2の同点。ココでどうにかして点を取りたい。
俺は気合を入れ直す為にトイレへ顔を洗いに行った。

「山本さんッ!!!」

俺が気を抜いてると、ハルの大きな声が聞こえた。

「えっ!?ちょ、ココ関係者以外立ち入り禁止…」
 
いや、その前にココ男子トイレのはずじゃあ?

「そんなことどうでもいいから聞いて下さい!!」

どうでもいいのか?よくない気もするが、俺はハルの迫力に負けて思わず背筋を伸ばし、大きな声で返事をしてしまった。

「はいっ!!」

「ツナさん達は…今日、イタリアに行っちゃうんです!!」

……は?ツナ達がイタリアへ…?今日?
俺の脳みそはいきなりの情報量の多さに、パンクしそうになった。
なるほど普段から使っておかないから、こういうことになるのか。

「ツナさんには口止めされてたんですけど…観客席をすごく哀しそうな目で見てる山本さんを…見てられなくて…」

今にも泣き出しそうな顔でハルは、俺にそう伝えた。
腹の底から、必死で搾り出すような声だった。
そりゃそうだ。この子にとって、これはツナへの裏切りなんだ。


俺はハルの頭にポンっと手を置き、

「ありがとう!ハル!!」

ごめん。辛いことばかりさせて。
それでも俺はツナたちの元へ行かないといけないんだ。
どんな理由があるかは知らないが…俺に何も言わずに行くなんて、酷すぎるだろ!!

「待って!山本さん!!試合はまだ途中ですよ!!」

俺の右手をギュッと掴み、縋るような目でハルは言った。

「そんなこと言ったって……」

俺は…どうすりゃいいってんだよ……

「ここまで3年間ずっと頑張ってきたじゃないですか!!
並盛ナインの気持ちはどうなるんですか!?」

ハルの言葉はそのままツナの言葉な気がした。
ツナならきっと…ココに残るだろう。
だって、俺を残していってしまったあいつらを追うのは、ただの俺のエゴなんだから。

それでも俺は行きたい。
あいつらと一緒にいたい。
おいていかないで欲しい。

「ツナさんは…山本さんに夢を叶えて欲しいんですよ!?」

もちろん俺の夢は野球選手だった。高校に入ってもずっと、相も変わらずそう言い続けてきた。

「だから…何も伝えなかったんですよ…」

そんなことは言われなくても分かってる。
   
じゃあ、俺は一体どうすりゃいいんだよ…項垂れる俺の背後から、静かな声が聞こえた。
   
「その心配ならいらないよ」




「やっぱり山本は間に合いませんでしたね、10代目」

俺達は応援に行ったフゥ太が撮ってくれている映像で地区予選の決勝を見ていた。
9回目の裏。2アウト満塁で、次は頼みの綱の

『4番サード山本君』

鶯嬢の凛とした声が、その名を告げた。

「お前が、決めたことだろ。諦めろ」

俺の背後で紡がれるリボーンの言葉が、重く深く俺の心に突き刺さった。

「…うん、分かってるよ。リボーン…これで良かったんだ。これで」

ゴメンね…やま…

「……ボス…この人山本さんじゃありませんよ?」

冷静に画面を観察するクロームの声。
画面に映る『山本』の姿を目を凝らしてよく見てみる。ホームビデオのせいで画質が荒く、しかも帽子を被っているせいで、俺にはよく分からなかった。

「…まさか……犬?」

クロームが驚きと共にそう言った。




「お前は……確か……」

思わず目を丸くして驚いてしまった。
どこかで見た顔だと思った。そうだよ。こいつら確か黒曜中の…

「俺は柿本千種。で、こっちが城島犬。話してる暇はない。犬が君の代わりをするから、君は早くボンゴレの所へ」

眼鏡の柿本が素早く説明をするが、俺にはいまいち状況が理解できない。

「なんで、お前らが……?」

「なんれって…決まってんだろ!!お前以外に誰が雨の守護者やるってんらよ!!」

いつの間にか俺と全く同じユニフォームに身を包んだ城島が声を荒げる。
   
「俺たちは行けないから…あの子をよろしく。ここは俺たちが上手くやりすごす」

そっかこいつら…あの子のために…

「OK!!…サンキューなッ!!」

二人に礼を言ってから、俺は全速力で走り出した。

「えっ!?嘘!?山本さん!!本気ですか!?そんなデンジャラスなッ!!」

もう、随分遠くでハルの叫ぶ声が聞こえる。
悪い。でもやっぱこればっかは譲れねぇ。




走った。走り続けた。足がガクガクになった。それでも全力で走った。
止まれなかった。止まれば、今まで俺たちが過ごした時間が一気に無に返されるような気がした。
好きだった。みんなで過ごした時間が好きだった。
未来のことも何もかも忘れて、ただの、普通の学生生活した時間がすごく、すごく好きだった。未来に何が待ち受けていようと、その時の俺たちは確実に幸せだった。
先輩は意味もなく叫び出して、気合を込めていた。
ヒバリはいつもみんなより少し離れたところで、俺たちを見ていた。
クロームは仲間っていうのに中々慣れなくて、ちょっと困ったように笑っていた。
ランボは何かと言うとちょっかい出しては怒られて、泣いていた。
獄寺はいつもツナの傍にいて、いつもツナのことを見守っていて、誰よりも…ツナのことを想っていた。
それは小僧も同じで、なんだかんだ言いながらもツナが大切で、ツナの幸せを誰よりも望んでいた。
俺は…俺は…
ツナの笑った顔が好きだった。
俺が笑うと一緒に笑ってくれるツナが好きだった。
少し困ったように…涙をこらえるように…ちょっと怒ったように…ツナはいろんな表情を見せてくれた。
それが何で?何で俺は気付かなかったんだ?
最近のツナは、俺に笑いかけてくれたか?辛そうな顔をしてなかったか?
俺は、この世で一番大好きな人から、笑顔を奪ってしまってたんだ。
俺は走った。
大好きな、ずっとずっと大好きな人の笑顔をもう一度見るために。



「ツナッ!!」

聞こえるはずのない声が聞こえた。でも、ずっと聞きたかった声だ。

「やま…もと?」

自分の目が驚きで見開かれている感覚がする。

「俺のこと置いてくなんて、ひどいんじゃね?」

汗と、泥まみれのユニフォームで現れた山本は明らかに試合を抜け出してきたのが分かる。泣きそうな俺とは裏腹に、山本はいつも通りの笑顔だ。

「どうして…ココへ?」

「それはこっちが聞きたい…あのさ、俺はツナから見ると…雨の守護者に向いてないのか?」

「そんなこと…ない」

そんな風に俺を見ないで。山本が悪いんじゃないんだ。全部俺のエゴなんだ。
思わず涙が零れた。ホントは山本の方が泣きたいだろうに。

「そりゃあ俺は不甲斐ないかもしんねぇ。でも、何も言わずにサヨナラなんて、そんなのナシだぜ?」

「…それでも、山本には野球を続けて欲しかったんだ」

喉が渇く感覚がする。必死に声を搾り出すように、俺は言った。

「野球も大事だけど、それ以上にお前が俺には大切なんだ」

いつの間にか、何よりも大切になったんだ。

「やま…もと…」

俺の瞳から止め処なく大粒の涙が零れる。感謝と…自分の不甲斐なさからの涙だ。

「ずっと傍にいさせてくれ。俺がお前を護るから」

真っ直ぐな瞳に本心を射抜かれた気がした。
本当はそんなことを言って欲しかったわけじゃない。
でも本当は一番聞きたかった言葉だ。

「ごめんね…ありがとう」

「泣くなって」



君は泣かないで。
俺の全てを君に捧げるから。

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