『薄桜鬼』二次創作 初夢の悪夢 朝起きた途端、勢い良く俺の部屋の襖が開かれた。もの凄い音が響いて、俺は眉を顰める。 「一君!!」 総司か……珍しいな、総司がこんなに慌てているのは。何か起こったのかと思い問おうとした瞬間、総司が飛びかからん勢いで、俺の肩を掴んだ。 「総司、どうし――」 「一君、耳は!? 尻尾は!?」 総司は一体何を言っている? 意味が分からん。耳は人間だから当然付いているが、尻尾など俺には無い。 わけがわからず訝しげに総司を見ると、総司は心底残念そうな表情を浮かべて溜め息を吐いた。 「なーんだ。やっぱり夢だけか。初夢であんなの見たから、まさかとか思っちゃったじゃない」 一体何を見たと言うんだ。 「……まさか、俺に尻尾が生えていた、などとは言わんだろうな」 嫌な感じがして先に釘を刺すと、総司はにやりと嫌な笑みを浮かべた。 「うん、その通り。虎の耳に虎の尻尾。凄く可愛かったよ」 勝手に生やすな。そんな自分の姿など想像もしたくない。 「僕が尻尾掴んだら、顔真っ赤にして逃げようとするんだよ。思わず引っ張っちゃった」 引っ張るな!! 総司にそんな姿を見せてしまったというのか俺は。 「だからね、あの格好、現実でもして欲しいなーと思って……」 思って? 懐を漁って、何を出す気だ総司。まさか……いや、まさか……。 「じゃじゃーん、虎耳と虎の尻尾!! さ、付けて」 そんな満面の笑みを称えて差し出されても、付けるわけが無いだろう。 大体どこからそんなものを持ってきたんだ。 「……断る」 俺が下らん、と溜め息を吐くと、総司は口元だけで笑みを作り、俺の腕をガッチリ掴んでくる。 「拒否権なんてあると思ってるの?」 それから十分間の格闘の末、俺の頭には虎耳が生え、後ろには虎の尾が垂れ下がった。 「一君可愛いー」 力負けして息も絶え絶えな俺と、涼しげな表情で楽しそうに俺を見る総司。……悔しい。 「ねえ、ガオーって鳴いてみてよ」 ……頭、大丈夫だろうか。ここまで来ると心配になってくる。 「何故俺がそんなことをしなければならない」 「一君、拒否権は無いよ。ガオーよりもあんあん啼かせられたいわけ?」 刀があれば抜いていただろう。そんなことを考えている間にも、総司はゆっくりと俺に顔を近づけてくる。まずい……しかし、だからと言って素直にガオーなど鳴けるわけもあるまい。だがしかし……ああ、考えている隙など無い!! 「が……がおー……」 視線を床に落として、屈辱に耐えながら必死に声を振り絞る。 「――っ!!」 その直後、俺の体は総司の腕の中にすっぽりと収まった。 「今夜は夢じゃなくて、現実で一君を抱きたいな」 こいつは何を言い出すんだ!! 夢じゃなくて、と言うことは、夢では抱いたのか!? 俺は抱かれたのか、虎耳で……。 「……ことわ――」 「らせないよ。たっぷり可愛がってあげるからね」 耳元で囁くな。息が掛かってこそばゆい。 総司を強く睨み付けると、総司は楽しそうに俺の頭を撫で回し、虎耳を取って部屋を出て行った。 「今夜、虎耳の可愛い一君をいっぱい見せてね」 という言葉を残して……。 「……強引な奴だ」 しかし、そんなあいつを好いているという己の気持ちは否定出来ない。 顔を洗おうと廊下に出ると、丁度角を曲がってきた副長に出くわした。 「おはようございます、副長」 副長は俺に気づいて顔を上げ……動きが止まった。一体どうしたと言うのだろうか。 「……斉藤、お前……何付けてんだ?」 「……何、とは?」 副長は変なものでも見るかのような目で俺を見てくる。少し傷つく。 「……尻尾みてえのが付いてんだが」 「――――っ!!!!!」 そうだった。総司は虎耳は取っていったが、虎の尾はそのままだ。ああ、副長になんて姿を晒しているのだ俺は!! 慌てて後ろの尻尾を隠すと、俺は自室に飛び込んだ。 「も、申し訳ありません!!」 総司!! 後で覚えていろ!! [*前へ][次へ#] |