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『薄桜鬼』二次創作
新年と誕生日
 一月一日、つまり元旦で斎藤の誕生日。なわけだが、何かあげるにしても全く思いつかねえ。どうしたもんかという悩みを抱えて、年を越しちまった。
「おい、斎藤」
 廊下を歩いていた斎藤を呼び止めると、斎藤はいつもの無表情で振り返り俺を見る。
「何でしょうか、副長」
 深い蒼の瞳に射抜かれると、どうにも緊張しちまって上手く言葉が出て来ねえ。
「あ、いや……、あけましておめでとう」
 そうじゃねえだろ。まあ間違っちゃいねえが。
「おめでとうございます」
 斎藤は軽くお辞儀をすると、廊下を歩いて行ってしまう。駄目だ、ちゃんと言わねえと!!
「待て、斎藤。ちょっと俺の部屋に来てくれるか」
 とっさに斎藤の腕を掴んでそう言うと、斎藤は少し驚いた表情で頷いた。
「……わかりました」
 廊下を進み、俺の部屋へ向かう。斎藤は何も言わずに俺の後をついてくる。
 俺の部屋に入ると、俺と斎藤は部屋の中央で向かい合って座った。この方が余計言いにくくなった気がするが、もう後には戻れねえ。
「さ、斎藤、誕生日おめでとう。何かしてほしいこととか、欲しいもんがあったら言ってくれ」 俺の言葉に斎藤は数秒ポカンとしていたが、にこりと柔らかい笑みを浮かべると言葉を紡ぐ。
「ありがとうございます……。俺は今年も副長と新年を迎えられたことだけで十分です」
 謙虚だ。それが斎藤のいいところではあるが、こうも謙虚過ぎると俺が困る。
「いや、俺が何かしてやりてえんだ。でも、お前が喜ぶことってのがどんなに考えても思いつかなくてな……。頼む、何かさせてくれ」
 頼み込めば、斎藤は真剣な表情で考え込む。どうせまたこいつのことだから、遠慮して俺の負担にならないことを考えているんだろう。
 暫く経って、斎藤が俺を真っ直ぐ見つめてきた。やっと決まったらしいが、斎藤の頬がほんのり赤みを帯びているのが気になる。
「……副長、では一つお頼みしてもよろしいでしょうか」
「ああ、遠慮はすんなよ」
 斎藤は言葉を発しようとするが、少し躊躇って目を伏せる。そしてちらりと俺を上目遣いで見ると、消え入りそうな声で呟いた。
「……は、一と、呼んで、下さい……」
 俺は一瞬、体中全ての機能が停止したかと思った。こんな可愛い表情でこんな可愛い頼みをするのは反則だろ。
「え……それだけでいいのか?」 斎藤は蒼い瞳で真っ直ぐに俺を見つめて頷く。それだけ、とは言ってもこれは結構気恥ずかしい。呼ぶタイミングが掴めずに俺は沈黙した。
「……嫌でしたら、いいです」
 沈黙を拒否と受け取ったのか、斎藤は目を伏せると立ち上がった。その表情は無表情ながら、どこか悲しげに見えた。
 俺は、考えるより早く体が動いて斎藤を後ろから抱きしめた。
「は……一っ!!」
 きっと今、俺の顔は真っ赤に違いねえ。この体制なら斎藤に気づかれずに済むだろう。
 そんなことを考えていると、斎藤が無反応なことに気がついた。抱きしめたのはまずかっただろうか。
 少し不安になって斎藤の顔を恐る恐る覗き込むと、斎藤は茹で蛸のように耳まで顔を真っ赤にして固まっていた。可愛すぎる。
「……副長、とても嬉しいのですが……それ以上に恥ずかしいです」
 俺の腕に手を添えて、恥ずかしいと俯く斎藤が愛し過ぎて、俺は斎藤をこちらに向かせると優しく口づけた。
「一、愛してる」
 口元を緩ませると、斎藤、いや、一も幸せそうな微笑みを浮かべてくれた。
「俺も、副長を愛しています」
 俺の誕生日には、一に俺を名前で呼ぶように頼もうと心に決めて、もう一度強く抱きしめた。

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