おれを嫌いになってくれ。 07 強い力で腕を戒められ、強引に振り向かされる。 近い距離で、縁司と遠野の視線が絡んだ。 「なにか?」 「どうしてここにいる、縁司。ここには生徒会室や風紀室くらいしかねえはずだぜ」 「……」 核心を突く言葉に縁司は唇を結んだ 。 静かに遠野の眼差しを見返す。 「生徒会でもないお前が、校内に残っていていい時間じゃない。…ここにいた理由を教えてもらおうか」 まるで問い詰めるかのような荒々しい語調だ。 二度も生徒会を辞退し、縁司の評価は底をついているのだろう。 信用ならないと、遠野の目は訴えていた。 「理由もなにも…。居眠りをしていたんだよ。そしたら寝過ごした」 「居眠り?」 遠野の眉間に、くっとしわが寄る。 縁司は唇に笑みを浮かべ、屋上を示すために人差し指を天へ向けた。 「ここの屋上は人が来なくて一人になるのに最適なんだよ」 「バカ言うな。屋上は立ち入り禁止だ。カギがかかってんだろうが」 「カギなんて、ピンがあれば簡単にあけられるだろう?」 まったくのウソというわけじゃない。 縁司が時間を持て余して、屋上に行くことはこれまで何度かあった。ただしカギはピンではなく、秋塚から横流ししてもらった合鍵であけたのだ。 「ウソくせえっ…。その余裕な面構え、本心じゃねえんだろ?」 「なんのことだよ?」 縁司の胸の内を暴こうというのに、遠野が瞳の奥を覗いてくる。 かすかに心の底がずくんとうずいた。 遠野は抱かれたい男ナンバー2なだけあり、男らしい顔立ちをしている。 言葉は乱暴だが、切れ長の強い眼差しは頼りがいがあり、風紀委員会をうまく回す手腕には定評がある。 縁司よりさらに五センチほど背が高く、伸びやかな筋肉が四肢をおおっていた。 力で挑まれたら、勝てる見込みはない。 だから口で勝つしかないのだ。 「まさか…てめえも風間に惚れてるんじゃねえだろうな?」 「…なに?」 いきなり出てきた名前に、縁司はいぶかる。 「風間に会いたくて、いそうな場所を探し回ってたんじゃねえよな?」 詰問するような低い声。 だが遠野の表情に懇願するような色がにじんでいる気がして、縁司は鼻で笑いたくなった。 (バカな。ありえない) 縁司だけはそうであって欲しくないと、切ない想いが滲んでいるだなんて、なぜそんなことを一瞬でも思ってしまったのか。 [*前へ][次へ#] [戻る] |