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おれを嫌いになってくれ。
05
秋塚にその名前を告げたのは、検分するためであった。
生徒会を魅了した風間。その実力はどれほどのものなのか。

目を細めた縁司に、秋塚は頷いてみせた。

「知ってる。あいつ、俺のクラスの生徒だからな」
「なんだ、風間の担任なんですか」

秋塚が何年何組の担任をしているかまで調べていなかった。
そういえば二学年だったかと、その程度だ。

「先生から見て、風間はどうです?」

噂によれば、風間と同じクラスの有名人らも風間に好意を寄せているという話しだ。自身の目で確認していないので信憑性は定かではないが、もしかしたら秋塚も――。

その疑惑は当人によりあっさりと肯定された。

「おもしれえ奴だよ。興味をそそられる。あんなナリしてるが、本当は…」

そこで秋塚は思い直したように口を閉ざした。

「本当は、なんなんです?」

食堂で見たかぎりだが、風間の容姿はけっして褒められるようなものではない。
ぼさぼさの天然パーマの黒髪に、いまどき逆に手に入らないだろうと思わせるような分厚いレンズのメガネ。
一言でいえば世捨て人のような風貌で、生徒会が好むような人種ではない。それで次々と惚れさせていくのだから、その実力に興味を覚えざるをえない。

風間の情報として有力なものだと直感が訴えていたが、秋塚はそれ以上話そうとしなかった。

「まあ、風間は抱くのにいい。溝落らが夢中になんのはムリもねえな」
「抱く…て。まさか、風間をネコとして見てるんですか?自分が受け持つ生徒でしょう?」
「抱きたいやつは抱く。それが俺の流儀だよ」
「あなたには教師としての流儀のほうが必要なようですね」

秋塚がゲイだということは知っていたが、見境なく手を出すゲス野郎だとは知らなかった。

呆れるものの、口は自然と開いていた。

「それなら、次に風間が落とす相手はだれだと思います?」
「あ―…?」
「彼を敵視している生徒達?それとも…――風紀委員長?」
「…お前…」

そう言うと同時に、縁司を見つめる秋塚の目に、切なさに似た影がちらつく。

それに気付かないふりをして、縁司は黒髪に映える魅惑的な笑みを浮かべた。

「生徒会のことも、先生のことも落としたんだ。可能性として十分にあるでしょう?」
「…もしくは、お前とかな」
「俺?」

水を向けられた縁司は、だが鼻で笑い一蹴した。

「俺はだれのことも好きになりませんよ」

――もう二度と。


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あきゅろす。
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