おれを嫌いになってくれ。 14 縁司はテーブルの引き出しから水色のノートを取り出し、かかげてみせた。 「ノートを置き忘れていてね。思い出してよかったよ」 黒く細い髪が揺れ、理知的な瞳が笑みを帯びる。 動作も優雅で隙がない。そこにいるだけで華があるとは、縁司のことをいうのだ。 「ところでみんな集まって、どうしたの?」 そんな彼をぼうっと見惚れていた隊員達は、やっと正気付いたように身を乗り出した。 「縁司さんはどう思います!?転入生の風間のことを!」 「まさか、あれが良いなんて言わないですよね…?」 隊員達を制止する間もなかった。 親衛隊の内情に触れることまで洩らす彼らに、少年はいよいよ腹をくくらねばならなくなった。 「小仲くんは真っ直ぐだよね。こうと思ったら、どこまでも突き進んでしまう」 縁司が薄い唇を開き、だれにともなく見解を述べる。 去年の段階で生徒会を退いた縁司が、自分の存在を知っていると思わなかったが、ふいに彼の視線が当てられた。 「小仲くんは自由奔放だ。たとえその道が間違っていようとも、気付かず進んでしまう」 「……」 「きみが隊長だね」 音をたて、縁司の足が少年のほうへ向かう。 見上げるほどの長身だ。顔が小さく足が長い。どこを取っても欠点などない。 縁司は、完璧だ。 「隊長ならば小仲くんが間違った道に行ったとき、正してあげなきゃいけないよ」 「…ぼくが…ですか…?」 「それが隊長の役目であり、きみ達、親衛隊の存在意義だ」 縁司の黒い瞳が近付き、指が少年の頬にかかる。 強い求心力を持つ彼に、あらがえるものなどいなかった。 「やらなけらばいけないことは…わかるね?」 「風間を…排除する」 隊員達の士気が高まる。 「小仲様を…救ってみせる」 縁司の口元に、笑みが浮かんだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |