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おれを嫌いになってくれ。
09
遠野が持つ縁司への執着は、ただ紀野がいた穴を埋めようというものに過ぎない。
憐れな話だ。

遠野はまだ紀野を失った痛みを癒せていないのだ。

(それならもう一度恋をさせてやればいい)

今度こそ幸せになれる人物と。だれもが憧れるような人物と。

「さすが。噂通り、生徒会がべったりだな」

昼休み、縁司は風間に会おうと中庭まで来ていた。

秋塚の話では、風間は授業をさぼりがちであるらしい。
クラスメートの不穏な空気を生徒会が嗅ぎ付け、風間から遠ざけようと教室から連れ出しているというのだ。

風紀委員会が風間の周辺を警護しているが、あてにしていないのだろう。

生徒会役員自らが動くことでさらに全校生徒のやっかみを煽っているのだが、彼らの頭にそこまでの考えはなさそうだ。

「溝落も厄介な恋愛感情に振り回されてんなぁ」

かつて生徒会で一緒だった溝落に春がくるのは良いことだ。
しかし縁司は縁司で、目的のために動かさせてもらう。

風間の周囲には風紀委員会が交替でいるため、もちろん遠野は風間と面識があるのだろう。
それがどれほどの親密さかはわからないが、もしも風間が本気で遠野を惚れさせようと思えば、それは呆気ないほど簡単にできるはずだ。

おそらく風間にはそれだけの魅力のようなものがある。生徒会が次々と落とされたのが良い例だ。

遠野にもう一度恋をさせてやれれば。

過去に囚われるかのように、縁司に執着することもなくなるはずだ。

そのためには、たくさんの人間を失恋に追い込もうとも、風間の気持ちを煽動することになろうとも構わなかった。

中庭は日当たりがよく、緑の濃さが眩しいほど自然が溢れている。
短く刈られた草地を囲うように植えられた人の背丈ほどの木々。

それらは辺りの空気を良くするだけでなく、通りすがりの人間の無遠慮な視線からも守ってくれる。

風間達は生徒達の視線から逃れるように、なかでも奥まったところにいた。
しかしどんなに逃れようとも、容姿ゆえに目立ってしまうのが悲しいところだ。

「今日のランチはサンドイッチ?だれかの手作りなのかな」
「縁司!?」

草を踏んで彼らに近付くと、木でできたイスのうえにはバスケットに詰め込まれた大量のサンドイッチがあった。
それを生徒会と風間で食べようというのだろうが、しょせん男の手作りだ。そう考えるだけで、どことなく足が止まりがちになってしまう。

彼らの中で唯一言葉を交わしたことのある溝落が、意外そうに名前を呼んできた。

「久しぶりだね、溝落。元気そうでよかったよ」
「縁司、お前も狙ってんのか?」

だれをとは口にしなかったが、彼が風間のことを指しているのは容易に推測できた。


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あきゅろす。
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