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リミット
06
道弥がわずかに下がったことで、快からも彼の背後にいる男が見えた。

引き締められた身体。落ち着いた茶色に染められた髪。
いつもは包容力を感じさせる瞳は、怒っているのか切れ長に細められている。

「これはどういうことなんだ?快」

目を疑ったが、その姿を見間違えるはずがない。なぜなら昨夜も、その人を見ていたからで。

「――伸也…さん」

掠れた声が、かろうじて名前をつむいだ。

そこにいたのは伸也であった。
彼は眉を寄せ、快の服装を睨めるように視線を動かしている。

驚きで固まっていた脳が急速に回り始めた。
自身の格好を見下ろし、顔が青ざめる。
言い訳は通用しなかった。

「ち、違っ…!これは…!」

弁明しかけたが、それに重なるように道弥達も声をあげた。

「伸也さん…!?どうしてここにっ…!?」
「このガキ、伸也さんの知り合いなんすか!?」

慌てていたのは快だけではなかったようだ。
恐喝の現場をおさえられ、かつその相手が伸也の知り合いとあらば道弥達の動揺も大きいだろう。

「高校生…とは、知らなかったけどな」

言葉を探すように口にした伸也の眼差しはいまだ険しい。
マスターの村岡にすら内緒で働いていたのだ。
当然二十歳を超えていると思っていた快が高校生とあっては、伸也の頭の中でどんな考えが巡っているのかわかったものじゃない。

快のクビに終わらず、村岡にまで制裁が下されたら…。

「ひとまずお前らは散れ」
「伸也さん…!」
「高校生相手に金巻き上げるような、みっともない真似はするなよ」

手を振って退散を命じる伸也に、道弥は食い付く。しかし伸也の意識は、すでに快だけに注がれていた。


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あきゅろす。
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