リミット
05
「くそっ…!あと三十分しかねえし…!」
携帯で時刻を確認し、快はイライラとしながらそれをまたスラックスのポケットへしまう。
アルバイトの時間が迫っているのに、高校の制服を着たままであった。
蘭華町は夜にそなえ、ビルのネオンが点灯し始めている。
空は暗く、いかにも高校生だと見てとれる快を不審がる者はいないが、制服姿の自分を店の客に見られたら大変なことになってしまう。
リミットの店の規定で、働けるのは二十歳からとなっている。十代の、それもまだ高校生だと知られれば即刻クビになるのは間違いない。
「加藤が帰り際に呼びつけたりするから…!」
面倒な雑用を押し付けてきた担任に恨み事を吐くが、アルバイトが始まる時間までもう間もない。
店へ行くまえにどこかで着替え、脱いだ制服をコインロッカーにでもしまいたかった。高校生の証拠となる制服を持っているのは、心臓に悪い。
トイレがあればそこに駆け込もうと考えていると、快を道路端に追い詰めるように人影が落ち、顔をあげた。
「高校生がこんなところでなにやってんだ?」
「ガキが遊ぶところじゃねえんだぜここは」
ぎくりとした。心のどこかで恐れていたことが起きてしまった。
蘭華町は酒と暴力に飢えた街。
未成年がうろついていれば、良いカモにされる。だから蘭華町では、大人ぶっていないといけないのだ。
「まさか高校生の分際で、街で遊ぼうなんて考えちゃいないよな?」
「んだよそれ、生意気ー」
絡み口調で寄ってきたのは三人。
どれも背が高く、音がじゃらじゃら鳴るほどアクセサリーをつけている。
その中でも金色に頭を染めた男が、顔を近付けてきた。
「ガキだって金くらい持ってんだろ。遊ぶなら俺らと一緒に遊ばなえ?もちろんお前のおごりで」
「はは、道弥えげつねえ!」
道弥と呼ばれた金髪男のよこで、肩ほどの髪をワックスで立たせた男が状況を煽るように笑い声をあげた。
どうしたって快を逃す気はないのだ。
出さないのならば力付くでも金を奪おうと、傲慢な瞳を向けてくる。
「さっさと金出したほうが、時間の有効活用だぜ」
低い声で道弥という男が脅しをかけてきた。
さらに後ろの二人も加勢するように一歩つめる。
素直に有り金を置いていけば、早々に解放されるのかもしれない。
しかしそうするには、苛立ちが積もり過ぎていた。
「あんたらに出す金なんかねえよ…!」
早く店に行かなければならない。
ただでさえ運悪く担任から呼び止められ居残りをさせられたうえに、金を巻き上げられるなど、冗談じゃなかった。
「へえ…。随分と威勢の良いガキだな」
「少し痛い目見ないとわからないのー?」
快が反論したことで男達に殺気立ったものが混じる。
これから殴ると宣言するように指の骨を鳴らし始めた道弥だったが、何者かに背後から肩を掴まれるとその動きを止めた。
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