リミット
04
校内の喧騒というものは、教室にいても聞こえてくるものだ。
バカ話に大笑いする男子生徒、連れ立ってトイレへ行く女子生徒。あまりにも呑気な光景に、快は知らず眉をひそめていた。
「恐い顔してると、女子から怯えられるぞ」
「あ?」
友人の間嶋司から指摘され、窓辺を背にして席に座っていた快は低い声を出す。
恐い顔とは失礼だが、快が吊りがちな瞳を険しくさせると怒っているように見えるのは自覚していた。
「俺は司みたいなイケメン様じゃないから。愛想振りまく必要がねえんだよ」
「その俺とバレンタインのチョコの数はるくせに、なに言ってんだか」
女というのは不思議なもので、不機嫌な顔をしていれば恐いと言って固まるくせに、しかしそれがまた良いのだといっては騒ぎ出す。
摩訶不思議で、子供っぽさが拭えない。
そう感じてしまうのは、快がリミットで働いているからか。
快の通う学校は男女ともブレザーの制服で統一された、共学の公立高校だ。
大学でなく、高等学校。
快の本当の年齢は二十一歳ではなく、高校二年の十七歳。年を誤魔化してリミットで働いているのだ。
「そういう冷めてて高校生っぽくないところが良いの、って伊藤が言ってたぞ」
「へえ…。伊藤ってだれ?」
「クラスメートだろうが」
はたから見ればクールでかっこいいで済むのだろうが、快と付き合うのであれば強い精神力がいる。
それをなんなく突破し、快と一年近く友人関係を続けている司は強者であった。
リミットの制服は黒をベースにしたタイトで大人っぽい印象だが、高校のほうは違った。
深緑をベースにした制服は白のシャツに映え、グレーと深緑のチェックのスラックスがお洒落だと人気がある。
しかし利点といえばそれくらいだ。快が通う碧柳高校は学力普通、進学率も平均並み。
校舎もありきたりな白い鉄筋で自慢できるところなど一つもありはしない。
学力の低い高校は不良の巣窟となっているが、そこまでいくほど踏み切れない。
碧柳高校は碧高と略され、どっちつかずのハンパな高校としてしばしばネタにされていた。
(高校なんて卒業できればどこも同じだよ)
就職の条件、高卒以上。
今では当たり前のその言葉に屈して、快は高校に通っていると言って良い。
そうでなければ年を誤魔化してまで飲み屋で働きなどしない。
金が欲しい。いつまでも親のすねをかじっていられない。
だから高収入の深夜勤務の店で働き、金を貯めているのだ。
「眠そうだな。今日もバイトか?」
快のアルバイト先を知っている司は、声をひそめて聞いてくる。
そんな眠そうな顔をしていただろうか。
快は頷き、同じく声をひそめた。
「まあな。今日シフトで、明日はもう一人のバイトのやつが出番だ。俺は休み」
「あまり無理するなよ」
そう忠告してくるのは、身体を慮ってか、快の立場を心配してか。
「わかってるよ」
どちらにせよ、そう返すしかなかった。
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