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リミット
03
伸也はマスターのまえのカウンター席へ座ると、胸元からタバコを取り出す。長い指が一本抜き取り、慣れた仕草で火をつけた。
その動きに魅入ってしまったのは、快だけではない。
栄子もまた、夢中になったように伸也を見詰めていた。
そういう男なのだ。伸也という男は。

(ぜってーセフレとかいそう…)

女だけじゃなく、男からでも選び放題のはずだ。むしろ伸也であるなら、これまでそっちの方面に興味のなかった男でも進んで足を開くに違いない。

南区のリーダーというステイタス。ケンカとなれば右に出る者はいない強さ。顔も整っていて、高い鼻梁も薄い唇もどこか色っぽさを滲ませている。
これで惚れられないわけがない。

「マスター、ハイボール頼む」
「かしこまりました」

リミットは伸也の行き付けの店だ。それは周知の事実で、南区ではリミットに一目置く店も少なくはない。

伸也が店に来るのは珍しくないが、来れば必ず店内中の視線をさらっていってしまう。それを本人が歯牙にもかけていないのだから、伸也の度胸がうかがえるというものだ。

「…栄子さん、水割り飲みますか?」
「え…?え、ええ…」

声をかけることで、快は栄子の意識を自分へ戻す。
いつまでも伸也に夢中になられては、仕事にならなかった。

ふと視線を感じて快は顔をあげる。

「…っ…!」

途端に、胸が震えるような感覚を覚えた。

伸也がこちらを見ながら、おもしろがるように口元で笑っていた。


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あきゅろす。
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