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リミット
02
栄子は店を見渡し、一人事のようにもらす。

「私はいいお店だと思うけどなあ」

店内は照明が薄暗く落とされ、四つのテーブル席とカウンター席があるだけの小さな店だ。

一番大きな光源は店員のいるカウンター内を背後から照らす、淡い照明。それが酒瓶にあたり、店内を明るく照らしていた。

カウンター内ではリミットのマスターである村岡もいる。五十を迎えた彼は落ち着いた物腰の男で、野心や強欲といったものとは無縁であった。だからこそ入れ替わりの激しい蘭華町で生き残るには、改革をせねばと思ったのだろう。
自分の店をたたむのは、悲しいことだから。

「接客なんて気にしなくて良いんじゃない?嫌だったらとっくにお店潰れてるし」
「俺じゃなくマスターに言ってください」
「快ってほんと冷めてる…」

呆れ混じりの栄子の言葉にも、快は眉一つ動かさない。

「まあこのお店はあの人の行き付けだし、潰れるなんてないでしょ」

そう栄子が口にしたのが招いたように、来客を知らせるベルが鳴る。扉に付けた鐘が鳴り終わるまえに出入り口を目にすると、背の高い一際目を惹く男が入ってきたところであった。

「あ、」

店内の温度が一度上がったようだ。
全ての人達の視線を釘付けにした男は、その魅惑的な唇を開いた。

「マスター、久しぶり」

胸が大きく音を立てた。だがそれは快だけじゃないだろう。

老若男女問わず人々を魅了する。落ち着いた茶色に髪を染め、自然な流れでサイドに流した髪は襟足よりも少し長い。
目が合えば心まで鷲掴みにされそうな二重の強い眼差しは、真っ直ぐにマスターの村岡へと向けられていた。

「お久しぶりです、伸也さん。二週間ぶりですか」
「ちょっと野暮用があって来れなかったんだ」

そう苦笑してみせる伸也は、蘭華町に足を運ぶ人間であるなら知らぬ者はいない人物である。
酒とともに暴力が横行する蘭華町の、南区を仕切るチームのリーダーであった。

「来ていただけて光栄ですよ。どうぞお好きなものを頼んでください。私が奢ります」
「マスターの料理はうまいから楽しみだな」

伸也は二十代の若い男だ。しかし詳しい年齢もその背景も謎に包まれており、快達が知るのは不良チームのリーダーであるということだけ。

南区に住む人達には見せないが、ほかの区と争うとなれば伸也は容赦をしない。
蘭華町を東西南北に分けたなかでも、南区はもっとも強いチームだと言われていた。


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