俺の元彼 08 甲高い音が耳をつんざく。 それがグラスのわれた音だと気付いたとき、薄暗い店内が目に飛び込んできた。 「そうだ…。俺…酔って、眠くなって…」 記憶がおぼろ気ながらよみがえる。 小熊から酒を進められるままに、次々とグラスを空けていった。そのうち慣れないアルコールで酔いがまわり、潰れてしまったのだ。 俺は目の前に並ぶ何杯もの空きグラスを、ぼんやりと眺める。 しかし悠長にしている場合ではなかった。 「なにすんだよ…!!」 小熊の怒声が響き、俺はびくりと体を震わせる。驚きのあまり、わずかに目が覚めた。 何事が起きているのかと、イスごと後方へ向きなおる。 そこで小熊の襟首を掴みあげる結城を見つけ、俺は瞠目した。 「お前こそなにしてんだよ!深谷を酒に酔わせて、どういうつもりだ…!」 結城は彼らしくもなく、眉を吊りあげ小熊をきつく睨みつけている。 甘い顔が台無しだ。 豹変した結城を、同じテーブルにいた女の子たちも呆気に取られたようにして見ていた。 (というか…、俺を酒に酔わせて…て、どういうことだ…?) 依然アルコールが残っているためか、うまく頭がまわらない。芯がぼんやりとし、目眩に似た酩酊感がただよっているのだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |