俺の元彼 03 小熊はカウンターから差しだされた新しいグラスを受けとる。 白い液体のなか、小さな泡があがっている。ジントニックだ。 「ほら、お前目立つからさ。今日の飲み会にもお前誘ってよかったよ。おかげで女子の参加が増えた」 「…それは俺のおかげじゃなくて本多のおかげだろ」 俺は冷めた視線で女とイチャつくテーブルを示す。 「女子にすげえ人気じゃん」 「あー、まああいつのおかげもあるよな。本多もすげえかっこいいし」 俺は女と寄り添い、耳打ちしあう結城を視界から追い出す。 仲睦まじくしているが、知り合ったのなんてここ数日のはなしだ。それをなにべたべたしているのだか。 腹の底が複雑な怒りで熱くなる。 俺と付き合っていたときは、あんなんじゃなかった。 好きなのは恵多だけだと言って、男にも女にも視線をくれなかった。 愛されていた自覚はあった。 しかし、結局は別れてしまった。 (俺だけだといいながら、本当は女が好きだったんだよ) 去年の十二月、結城の誕生日を彼の家で祝った翌日。 その日も日曜日で休みだったが、俺は部活の練習があり一日を学校で過ごすことになっていた。 平日より遅い時間に家を出て、最寄りのバス停へ向かおうとする。そこで腕時計がないのに気付き、俺は足を止めた。 (やべ、結城の家だ) 昨夜部屋でケーキを食べ、そのあとセックスへなだれ込んだ。 その際、邪魔になるからと外してそのまま置いてきてしまったのだ。 「あいつ起きてるかな」 まだ時間に余裕があるからと、バス停のまえに結城の家へ寄ることにする。 俺と違って彼は今日も家にいるため、まだ寝ているかもしれない。 だがたとえ結城が寝ていても、家の人が起きていれば時計は返してもらえるはずだ。 俺は結城の家に急いだ。 しかしそこで見てしまったのだ。 休みのはずなのに、朝から身なりを整えて出迎える結城。 それに笑顔で応え、花柄のかわいいワンピースを着る見知らぬ女。 二人は笑顔で話すと、家のなかへ消えてしまった。 昨夜、あんなに愛を確かめあった、特別な場所へ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |