俺の元彼
02
(…みっともない)
グラスを持つ手に力が入る。
歯がグラスのふちにあたり、カチリと音がなった。
「どうした?楽しんでる?」
俺が眉間にしわを寄せていると、カウンターに座る俺のとなりへだれかが座った。
とたんに香る柑橘系のフレグランス。
俺は小さく声をもらした。
「小熊くん」
薄い綿シャツを何枚も重ねた彼は、この飲み会の主催者であった。
俺は慌てて笑みを浮かべ、この場を楽しんでいることを伝える。たとえ気持ちが裏腹であっても、これから四年間一緒にいる相手だ。第一印象は良いにこしたことはない。
「楽しんでるよ。今日は誘ってくれてありがとう」
お愛想を浮かべ、グラスをかかげる。
小熊が持っていたグラスと合わせ、乾杯をした。
そのまま俺は苦味のある液体を口に含む。それに目をとめた小熊が、不満げな顔をみせた。
「まだ全然減ってないじゃん。ちゃんと飲んでる?」
「飲んでるよ。ただ…まだちょっと場になれなくて」
人見知りを装って返すと、世話好きなのか主催者である責任感からか、小熊はここに腰を落ちつけてしまった。
「あ…俺に気を遣ってくれなくていいよ…?」
一応声をかけたが、小熊は聞く耳を持ってくれなかった。
半分ほどに減っていたグラスを飲みほし、カウンターの向こうへ新しいものを頼んでしまう。
「まあまあ、そう言うなって。俺、深谷と話してみたかったんだよね」
「え…?」
「お前、目惹くじゃん?」
そう返されるが、俺はなんのことを言っているのかわからない。
小熊とは教室で会って、あいさつを交わすくらいだ。興味を持ってもらえるような出来事はなかったはずだ。
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