俺の元彼
11
立ち止まった俺たちを、周囲の歩行者がぶつかりそうになりながら避けていく。
通りすぎさま、悪態をつかれたがかまわなかった。
結城にそう思われていたなんて悔しかった。
だが、それ以上に悲しかった。
「おとなしく…、こっち来てっ…」
結城は路地裏に俺を引っ張りこみ、人通りから回避させる。
暗くなった視界が、よけい悲しみをつのらせた。
「だらしないのは、お前のほうだろ…!」
「え?」
激昂しだした俺に、結城は眉をよせる。
「何人も女囲んで楽しいかよ!ちやほやされてうれしかったかよ!」
「恵多…?なに言ってるの?」
「俺以外の…女とスルのはっ…、よかったかよ…!」
言ってしまった。
ぐずぐずと溶けだしそうな胸は、悲鳴をあげていた。
ずっと心に隠していた想い。
真っ平らな男の体じゃない。
長年一緒にいる、熟知しすぎた相手じゃない。
新鮮で柔らかな女は、俺なんかよりずっとよかったか、と。
涙がこぼれた。
もう結城とは終わったと思っていたのに、全然忘れられていなかった。
そこにいれば目で追ってしまうくらい、今でも結城が――。
「恵多は…、もう俺のことを忘れたんだと思ってた」
体がびくりとした。
結城からため息をつかれ、俺の鼓動が早くなる。
それはどういう意味だろう。
結城を忘れた俺でなければ、話しかけたりはしなかったという意味なのか。
俺は、見切りをつけられるのか――?
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