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俺の元彼
10
「おいっ…、離せよっ…」

俺はおぼつかない足で踏ん張り、どこかへ連れていこうとする結城に抵抗する。
体の左半分に感じる彼の体温が落ちつかなかった。

これではまるで、付き合っていたころに戻ったようだ。
さきほど見ていた幸せな夢が、俺の頭を勘違いさせる。
俺たちはもう別れたんだ。

愛を囁いていた二人は、もういない。

「恵多、抵抗するの?」
「え…?」

思ったよりずっと低い声が、俺を牽制する。
こんなに低い声はベッドの中でしか聞いたことがない。

しかしここは看板のイルミネーションに彩られた外で、ましてや俺たちは顔すら合わせていなかったのに。

俺はとられた腕をぐいぐい引っ張る。焦っていた。

「俺のやることが聞けないの?あんな訳のわからない男には、好きにさせてたくせに?」
「な、なんのことだよ…!?」

あとにした店内で結城が見せた凶暴な一面は、すでに薄らいでいた。
しかし俺は背筋がぞくぞくとするのを止められなかった。
本能的な勘だ。

彼は怒っている。
おそらく俺に対しても。

こんなふうに問いつめられたことなど、一度もないのに。

「とぼけるの?酔って、あの男とどこに行くつもりだったの?」
「どこに…て、俺はべつに…」
「ラブホ?」
「なっ…!」

ラブホテル。
それは結城と付き合っていたころ、何度もお世話になった場所だ。

彼が言うと生々しさを感じる。

俺は頭に血がのぼるまま、動かない体を叱咤して、これ以上ないほどに暴れた。

「ふざけんな…!俺がそんなだらしなく見えるのかよ…!そういうことするやつだと思ってたのかよ…!」
「ちょっ…と、暴れないで、」


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