I'm FAKER
05
「笠井さん…!」
真横から声がかかり、笠井はそちらへ視線を向ける。
めったに会計と話すことができない剣道部員らが、今がチャンスとばかりに笠井へつめよってきた。
「あの…!好きな食べものはなんですか!?」
「おやすみの日はなにをされてるんですか?」
「笠井先輩!連絡先交換してください!」
最後に黄色い悲鳴がわき、その場が盛り上がる。
笠井は心なし、身体を後退させた。
(もしかして、やばいパターン…?)
頬がつりそうになるのを、緩い笑みのしたへ押し隠す。
他人へは分け隔てなく接するが、仲良くしたいわけではないのだ。
そうも瞳をらんらんとさせて来られても、親密になろうとは一切思わない。
「あのー…、きみたち、落ちついて…」
「ちょっとみんな!笠井くんに迷惑でしょ!」
笠井に掴みかかる勢いの彼らを、名も知らぬ彼が制してくれる。あいだに入ってくれるのは助かるが、さりげなく友だち面をされているのが気になった。
(というか郷ってやつ、どこいった…?)
目をはなしたすきに、彼の姿は体育館から消えていた。残されたのは彼の面と防具だけだ。
「いいじゃん少しくらい!桃井は笠井さんのなんなんだよ!」
同じ二学年らしき部員に文句を言われ、桃井はうっとつまる。
そうか、となりの彼は桃井というのか。
今後のために覚えておこうと心に刻み、笠井はじりじりと後ろへさがる。
今は目の前の騒ぎにかまっていられなかった。
笠井は視線を動かし外を探る。
すると、体育館からそう離れていない水飲み場に郷の姿を見つけた。
「ぼくはっ…、笠井くんの友だちだけどっ…」
自信なさげに声を小さく言いかえす桃井を、かばっている余裕がなかった。
剣道部らの意識が桃井へ集中しているうちにと、静かに体育館をあとにする。
我ながら、なんでこんなことをしているのかわからなかった。
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