I'm FAKER
04
試合後、和やかさを取り戻したその場に、拍手の音が鳴る。
剣道部員たちが何事かと顔を巡らせると、外とを繋ぐ扉に寄りかかり、手を叩く金髪の生徒がいた。
「笠井さん!」
「わぁっ笠井先輩だぁ!」
歓声がおこり、笠井はそれに応えるように緩い笑みを浮かべる。
入学時から有名であった笠井だが、今年二年となり会計に選ばれてからは、校内に知らぬものはいないほどとなっていた。
男に騒がれる状況も慣れたものだ。
「はおー。試合やってるんだねー。見させてもらったよー」
突然の会計の登場に部活を放りだし、人が集まってくる。剣道部というからにはゴツい男が大半かと思いきや、かわいい子から理知的な男子生徒まで、そのタイプはさまざまであった。
「生徒会の帰りですかぁ?」
黒い胴着を着て、暑いのか袖口をおった小柄な生徒が瞳を輝かせる。
彼には見覚えがある。
となりのクラスである二年三組の生徒だ。
(そっか、剣道部だったのか)
廊下で居合わせたときには立ち話もする相手だ。しかし名前を知らなければ、部活に所属していることさえ知らなかった。
いくら愛想良く話していようと、笠井にとってはその程度なのだ。
「そうだよー。帰りに通りかかって。彼って強いんだねー」
そう言って笠井は視線で試合に勝った彼を示す。
顔につけていた面を取り、頭へ巻いていた手拭いを面の中に押し込んでいるところだった。表れた短い黒髪に、切れ長の瞳。
髪を染めたことなど、ないのだろう。
「彼は剣道部の部長で、去年は一年なのに全国大会までいったんですよ。ねえ、郷」
話しを向けられ、郷と呼ばれた彼がこちらを見る。
大人びた眼差し。
彼にとって、こんな校内の試合ごときでの勝利は、数にも入らないのだろう。
(…あれ)
試合のときのような男らしい声が聞けるのかと思いきや、郷は視線をやっただけでまた戻してしまった。
笠井が目に入らないわけはないだろうに、すげなく振り払われた。
これに慌てたのは郷に水を向けた、となりの彼であった。
「ご、ごめんなさい!郷は愛想が悪くて…!」
「あはは、そんなのいーよー」
頬を染め何度もかわいらしく頭をさげる彼に手をふりつつ、笠井はさりげなく郷をうかがった。
彼以外の剣道部員たちは、試合を放りだして騒いでいる。
その中で郷だけが面のまえで正座をしているのは異様でさえある。
(俺のこと…知らないとか…?)
しかし生徒総会では司会を務めたし、なんやかんやと注目されることが多い。自由な校風といえど、白に近いほど髪を脱色している生徒はいないし、顔の良さは折り紙つきだ。
自分でいうのはあれだが、知らないわけがない。
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