I'm FAKER
03
他の生徒会の面々も似たり寄ったりの経験があるのか、どこか互いに踏み込まない関係にあった。
最初のころは、谷垣もバカな男じゃなかった。気に食わないのなら当たり障りなく接すれば済む話しだ。以前の彼なら、間違いなくそうしていただろう。
(でもそれができなくなった。恋をしたから―…)
恋をすると、人は変わるらしい。
純汰と友人関係にあった笠井をライバルとし、純汰を取られやしないかと常に睨みをきかせるようになった。
そんなヒマがあれば、さっさと純汰をものにすればいいのに。
しかし谷垣は距離のつめ方がわからないようで、純汰とは友人のままだ。
(色男の名が泣くぞ)
他人事にそんなことを考えてみるが、恋愛は本人次第だ。自分が口をだすことじゃない。
純汰とは恋愛の話しをしたことがないため、彼が同性を好きになれるのかはわからない。しかしさんざん女関係で嫌な思いをした笠井は、二人のことは放任していた。
だいたい他人の恋愛事情に首を突っ込むほど、自分はかいがいしくない。
(けど、そろそろ本気でうぜえなあ…)
夕方となり、生徒会は終わっていた。寮に戻る道すがら、グラウンドで部活をする野球部の声を聞くとはなしに聞く。
己のふしだらさが招いたことでも、こうもちくいち睨まれると苛立たしくなってくる。
純汰をどうこうする気はないのに、まったく信じちゃもらえない。
てっとり早くどうにかする方法はないだろうか。
「ん…?」
そのとき、ふと耳につく声があった。
聞こえたほうを見ると体育館がある。夏場で開け放した扉から、剣道部が試合をしているのが見えた。
「へえ…めずらし」
他校と行っているわけではないようだが、試合というのは興味をそそられる。なにより先ほど聞こえた剣道の掛け声らしき力強い声が、笠井の興味を引いていた。
体育館の扉へ近づき、中をのぞく。ネットで真ん中を隔てた体育館では手前で剣道部が、奥のほうではバスケ部が練習をしていた。
(剣道の試合とか初めて見るな…)
バスケなどは授業でもするが、剣道はそうもいかない。
白い線で囲まれた正方形の中心に、防具を身にまとった男が二人、竹刀を突きあわせていた。
二人のまわりに審判役と思しき三人の生徒がいる。彼らは紅白の旗をもち、二人の動向をまばたきも惜しんで凝視していた。
背中に白い帯をつけた選手が、声を発した。
(これだ―)
笠井は体育館のわきを通りかかったときに聞いた声を思い出す。あれは間違いなく、目の前の彼であった。
不明瞭な、しかし他者を威圧する声。
以前聞いたことがある。
剣道で一本をとるには、技の正確性とともに声の大きさが問われるのだと。
彼に触発されたように対戦相手も声を発する。しかしそれだけでわかる。
二人の力の差は歴然としていた。
緊張感が満ちる。
彼から発せられる張りつめた空気がピークをむかえた。
そのとき―。
「面―!」
鋭い掛け声とともに彼がすばやく動き、竹刀が振りおろされる。
三本挙がった白い旗。
彼の勝利であった。
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