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リクエスト企画
 ー 05 ー 
倦怠感などという甘いものじゃない。
一瞬意識を飛ばしていたらしい邑史は、目覚めると松波の腕の中にいた。

「よかった、起きました?気絶するから驚きました」
「きぜ…つ…?」
「それだけ悦かったってことなんでしょうけど」

いけしゃあしゃあと述べる松波へ殺意がわく。
行為のまえは怒りに満ちていた彼も、今はすっきりとした表情をしている。
神原とのキスは、ある程度気が治まったようだ。

「良かったじゃねえよ…!学校でこんな…!」
「先輩があんなによがるなんて初めてじゃないですか?だれかにバレるかもしれないってのがヨかったのかな」
「てめえ…」

反省の色のない松波は、制服を綺麗に着たままだ。対して邑史は上下ともはだけられ、裸同然の格好をしていた。
自分だけがこんな格好をさせられていることにまた腹が立ってくる。

「お前なぁ…!だれかに聞かれてたらどうするつもりだったんだ…!」

イったあとの気怠さを微かにまとっていた松波は、色っぽく唇を持ち上げた。

「あんたが俺のものだって知らしめることができて、いいじゃないですか。好都合ですよ」
「なっ…、おま…」
「これに懲りたら、もう他の男のまえで隙を見せないでください」

松波はその瞳にわずかな危険な色をともす。

「二度目があったら、もう容赦しませんよ」
「…、…え…?」

あれで容赦されていたのかと邑史は血の気がひく。
あれ以上など…。

(体が壊れるだろうが…!)

ケンカの際のクセで、強いものから視線を反らせなくなりながら、邑史は己の今後を危ぶんだ。


*****


ここ最近イライラしていた神原は、久しぶりに晴れ渡った気分だった。

「神原!」
「あれー、巣鴨じゃーん。どうしたのー?」

邑史の高校へおもむいたあと、夜まで時間を潰そうと街をふらふらしていると、同じ高校の制服を着た巣鴨に呼びとめられた。
この残暑日に息を切らし、汗をたらしている。走ってきたのだろう。
なにも気づかぬふりをしながら、神原は込みあげてくる笑いを堪えた。

「どうしたじゃねえだろう!話しの途中でいきなり走っていきやがって…!まさかとは思うが、邑史さんのところへ行ってたんじゃないだろうな」

確認というより、確信を得ようという眼差しが神原へ向けられる。

(巣鴨は頭がまわるからなあ)

ヘタな隠し事は得策じゃない。
しかし邑史にキスしたことを告げれば神原がただじゃ置かれないため、曖昧に頷くことにした。

「まあね。松波の顔が見たくなっちゃって」
「馬鹿やろう…!俺らが口を出すのは、野暮だと言っただろう」
「そうだけど、憎い相手の顔くらい確認したっていいでしょ」

憎い相手――。

本当に、憎い相手だ。
紅蓮の焔とのケンカのあと、邑史は携帯を気にするようになった。夜には必ず集まり、他愛のない一時を過ごしていたのに、最近は来てもすぐさま帰ってしまう。
おまけに色気が出始めたことから、邑史になにが起きたのかはおのずと知れた。

(俺は…あんな男は認めない)

邑史へ口付けたとき、あの男はものすごい形相で神原を睨んでいた。

(良い気味だ)

あのまま二人が別れてくれればいいのだが、あの嫉妬深そうな男が簡単に邑史を手放すとは思えない。

「憧れの人がいきなり現れた男にさらわれたのは、気に入らねえだろうけどな。あいつは邑史さんが選んだ人だ。おかしなことはするんじゃねえぞ」
「わかってるよ」

すでに引っ掻き回したあとだと知ったら、巣鴨は怒るだろうか。
神原はすべてを濁すように無邪気な声をあげた。

「巣鴨ー!憂さ晴らしにゲーセン行こゲーセンー!」
「…わかったから、静かにしろ」

もし怒りのまま、松波が邑史にひどいことをすればただじゃおかない。
邑史を泣かせた日には、二度と邑史に手を出せないよう、両腕の骨を折ってやるつもりだ。

(まあエッチで泣かせるくらいなら、まだ許してやるけど)

自分たちの総長を傷つけたら許さない。
地獄の果てまで追いかけてやるから、覚悟しておけ――。


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