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07
夕食を済ませた後、雅と嵩林は黙々と仕事をこなした。積まれていた書類の半分以上を嵩林が引き受けてくれ、雅の机の上は随分と広くなった。お陰で仕事は終わりが見え始めていた。

書類がなくなった代わりに、雅の机のすみには食べかけのフライドポテトが置いてある。
嵩林が買ってきてくれた夕食の量は雅の許容量をはるかに超えており、ほかにも食べられなかったチキンナゲットとアップルパイは嵩林が食べてくれたのだ。
なんでもかんでも嵩林に世話になりっぱなしである。

(けどあんな量食べられるかよ)

雅はわずかに眉を寄せ、先程のことを思い出す。
嵩林には非難されたが、それでも雅は肉が二段になったハンバーガーを平らげたのだ。フライドポテトだって半分までは胃におさめた。
しかし嵩林は不満だったようである。均整のとれた長身な身体に似合って、自分の分を一瞬で食べ終えた嵩林は食の進まない雅を急かした。

『それだけしか食べないのか?もっと食えよ』
『俺はお前とは違うんだよ。そんなバケモノみたいな量を食べられるか』

そう言うと嵩林はこれ見よがしに溜め息を吐いてみせた。

『そんなんだから細いんだよ。そのうち倒れても知らねえぞ』
『お前がガタイ良く育ち過ぎなんだろ。自分を基準にするな』
『お前…言いやがったな』

嵩林の頬が引きつったが、無視をした。
フライドポテトだけは全部食べろという嵩林に譲歩し、こうして机に置いているのだから良しとしてもらいたい。といっても仕事の合間に手を伸ばしているので、食が進まずまだかなりの量が残っていた。

雅はすっかり冷めたポテトへ手を伸ばす。それを口に入れていると、嵩林が顔をあげた。

「全部食えよ」
「…わかってるよ」

そんなことを言うために仕事の手を止めたのか。意外と執念深い彼に辟易したが、話しはそれだけではなかった。

「お前、指輪してるんだよな」
「……」

自身の左手の中指に収まるシルバーの指輪へ瞳をやる。

「お前の趣味ってそういうのなのか?」

訝しげな顔をした嵩林は、ずっと疑問に思っていたのかもしれない。
屋之高校は校則が緩く、アクセサリーの着用を許可している。そのため雅は入学時からこのシルバーの指輪をつけていた。
幾何学模様が刻まれたそれは、少しくすんでおり、よく見れば細かい傷が沢山付いている。

(確かに俺には似合わないか…)

美人といった風貌をした雅に、この指輪は似合わない。それもそのはずで、これは亡くなった兄がつけていたものだからだろう。

「変か?」
「変っつうか、それだけ浮いてはいるな」

雅は中指にはまった指輪をくるくると回す。傷だらけのそれを見ていると、嫌でも事故のことを思い出す。

小学三年生のときだった。
雅が六つ違いの兄と一緒に信号を渡っているとき、突然トラックが信号を無視して突っ込んできたのだ。
それにいち早く気付いたのは兄だけだった。咄嗟に雅を突き飛ばした彼は、逃げる間もなくトラックに弾かれてそのまま亡くなったのだ。

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