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トップシークレット
06
一刻一刻と、秒針の音が響く生徒会室。
二時間前には全員いたその部屋も、今や雅しかいなかった。

「仕事終わらねえなあ…」

机に積まれた書類の山を、雅は頬杖をつきながら見やった。
静かな室内で一人仕事をしていれば、嫌でも孤独感が押し寄せてくる。

教科書を持ち帰ったあと、すぐに生徒会室へ戻る気になれず、雅は部屋に誰もいなくなったところで生徒会室へ戻ってきた。
カバンの中に入っている、ボロボロの教科書がそうさせたのかもしれない。これが見つかるのは避けたかった。

だがその代償か、目前には手付かずの書類の山。

「今日中にこれ終わらせないとまずいよな…」

生徒会の仕事は役員全員に分け与えられ、それを毎日こなすことがノルマである。
きのうも雅はそのノルマを終わらせることができなかったため、今日もできなければ明日はもっと悲惨な状態になる。

「俺はあいつらと違って、出来が良くないってのに」

文句が口をつくが、そうしている間にも時間は過ぎてしまう。
要はやるしかないのだ。

だがその前に、と雅は席を立ち部屋のすみへ向かう。働かせ過ぎて動きの鈍くなった脳へ、糖分を与えてやるためだ。

生徒会室の一角に設けられたスペースには簡易キッチンがある。
来客の際に丸見えにならないよう戸棚で目隠しされているそこは、コンロや食器棚、お茶の用意ができる程度の二畳半ほどのスペースだ。
雅はヤカンでお湯を沸かし、その間食べられるものはないかと食器棚の中を物色する。空腹時につまめるようにとクッキーなどのお菓子も入っており、ちょうど手前に口のあいたチョコチップクッキーが置いてあった。

「なにも食べないよりはマシか」

クッキーの箱を取り出し中身を確認する。
そうしていると、ヤカンが甲高い音をたて沸騰を告げた。
だが火を消した直後、背後で物音が聞こえ、雅の身体が大きく跳ねた。

「やっぱり仕事が終わってねえんじゃねえか、お前は!」

慌てて後ろを振り返る。そこにいた人物に、雅は驚き目を見張った。

「嵩林…」
「しかもまだまだ終わらないからって茶の準備か?暢気にしやがって」

忌々しげに舌打ちする姿は、まぎれもなく嵩林である。すでに帰途についたと思っていたのに、彼はいまだ制服姿で学生鞄を持っている。

「お前…帰ったんじゃなかったのか…?」

茫然と呟けば、怒りでつり上がった瞳がこちらを一瞥する。
雅を睨む眼光は鋭いが、それでも苛立ちを含ませた声で答えてくれた。

「机の上に仕事が山積みになってんのに、帰れるわけねえだろ。つうか、仕事が終わらねえんなら、何で言わねえんだよっ」

誰がとは言わなかったが、仕事が山積みなのは嵩林ではなく雅のことだ。彼は今日も自身の仕事を全て片付け帰宅したのだから。
しかし雅が仕事を抱えていることが気懸かりで、戻ってきてくれた。そういうことなのだろう。

嵩林は言うだけ言うと、執務机のほうへ歩いていってしまった。去り際、雅に声を掛けて。

「お茶、二人分用意しろ。俺も手伝う」
「え…?」
「お前一人じゃ終わんねえだろ」

呆気に取られ、雅の唇が薄く開いた。
外はどっぷりと闇に沈んでいるのに、雅の仕事を手伝ってくれるというのか。

「食い物なら近くでハンバーガー買ってきたから、それ食うぞ」
「……」

嵩林の手には赤と黄色が描かれた有名チェーン店の紙袋。わざわざ来る途中で買ってきてくれたのだ。

信じられない。
理解できないと思うと同時に、先程自分が下した彼の人物像を思い出した。

"なんだかんだ言って人が良い"

そんな彼を訳がわからないと思いつつ、温かな気持ちが湧き上がるのを雅は止められないでいた。

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