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トップシークレット
01
重厚な造りの室内に、これまた彫り模様が施された豪華な執務机。
開放感を出すため淡いベージュを基調とした壁紙は天井を彩るシャンデリアによく映え、一目で金が懸かっているのがわかる内装であった。

これだけ綺麗な室内には、やはり顔が良いものを配置したいと思うのが人情なのであろう。
仕事ができるできないに関わらず。

(終わんねぇ…)

そんな人情の犠牲者である雅幸哉は、やってもやっても終わらない仕事に、周囲に気付かれないようこっそり溜め息を吐いた。

「遅くなってすみません…!」

それまで静かだった生徒会へ、慌ただしく人が入ってくる。赤みがかった茶色の髪に、大きな瞳が可愛いらしい生徒会書記の岡山由実であった。
放課後、生徒会の仕事が始まり三十分ほど遅れてやってきた彼は、いつもはきっちり留めているシャツのボタンが外されている。いかにも何かあった雰囲気だ。

「岡山…!?どうした、その格好…!」

すぐさま生徒会会長である嵩林正尋が仕事の手を止め、彼のもとへ駆け寄る。会計の飯垣敬汰もそれにならった。

「ここに来る途中、教室に連れ込まれて…」
「ヤラれたのか…!?」

厳しい目で訊く嵩林に、だが岡山は明るい顔で笑ってみせた。

「いえ。股間を踏んずけて逃げてきました」
「うっわあ。由実ちゃん容赦ねえー。その男が可哀想だわ」
「お前は踏まれる立場だからなぁ。無体なことすると、お前も股間踏んずけられるぞ」

嘆く飯垣へ、にやにやとしながら嵩林は脅しかける。飯垣が好みとあれば手を出し、今は岡山に熱烈アプローチをかけていると知ってるがためのからかいだ。

若いうちから枯れたくないーと冗談まじりに悲鳴をあげる飯垣を見届けると、雅は途中であった仕事を再開した。

本当ならば、雅も危険な目に合った岡山へ駆け寄り、心配するべきであることはわかっている。だが、雅の中の冷めた部分がそうしようという気を起こさせないのだ。

(シャツはちょっとはだけた程度だし、ここまで走ってこれたなら後ろに突っ込まれたわけじゃないんだろう)

そんなことよりも、自分には溜まった仕事が待っている。きのう別用で生徒会室へ来れなかったために、仕事の進みがよくないのだ。

「にしても、由実ちゃんが無事で良かったよー。他人に侵された孔に突っ込むのは、やっぱ悔しいもん」
「あはは、突っ込まれる気はないから安心して」
「そんなチャラ男より、俺のほうがずっと優しいぜ?」
「会長は黙ってて!!」

飯垣が岡山へアプローチするのも、面白半分にそれを混ぜっ返す嵩林もいつも通りである。
岡山の無事が確認できた彼らはまたそれぞれの執務机に戻っていく。
雅一人が会話に入らないのもいつものこと。

別段気にすることもなく仕事に取りかかっていた雅だが、そんな彼のまえで嵩林は足を止めた。

「…お前、仕事溜まってね?」

ぎくりとした。
顔を上げれば、男らしい眉をひそめ、嵩林が端整な顔を訝しげに歪めている。

図星であると、悟られたくなかった。

「そんなことねえよ。気が乗らないから、ゆっくりやってるんだ」
「ゆっくりって…。それで仕事が終わらなかったら承知しねえぞ」

嵩林は呆れ混じりの怒った表情で、雅を睨んでくる。ウェーブがかった長い黒髪を掻きあげる男臭い仕草に似合わず、嵩林は案外真面目な生徒であった。生徒会の仕事も自身の勉学にも手を抜かない。

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