トップシークレット 18 教室ではいつも遠目から視線を送られるだけだった。だから目の前で話す椎名を見るなど、想像もしなかったのだ。 「椎名…!お前が来ることなかったのに…!」 牙が取れた野生の獣そのままに、男は眉を下げ椎名のもとへ馳せていく。他の男達も同様、意識は突然現れた椎名へ向けられており、彼の影響力がわかるようだ。 しかし感心ばかりもしていられない。近付いてくることはないと思っていた椎名が自ら現場へ訪れた。 目的がないわけがない。 雅は警戒心を高める。 そんなとき、ふと椎名がこちらを見た。 「さっきの僕宛の言葉なら伊藤から伝えてもらわなくて大丈夫だよ。聞いてたから」 天使の笑みの裏にぞくりとくるものがある。 (聞いていた…?どこかから見てたのか…?) 伊藤と呼ばれた椎名のそばにいる男が、険しい眼差しで雅を睨む。 そうだ、この男はそういう名前だったかもしれない。 さながら姫を守る騎士のような伊藤を中心に、他の取り巻きも椎名へ付いた。 初めて椎名と対面する。クラスメートなのにおかしな話だ。 雅より背が低いのを怯む様子もなく、椎名は圧倒的な存在感とともに笑みを浮かべた。 「伊藤が殴ろうとしなければ出てくるつもりはなかったんだけどね…。きみと話すなんてしたくないし」 「……」 悪びれず毒を吐く椎名は、己の行動の正義を問うつもりはないのだろう。 (だから俺に近付いてこなかったのかよ) 納得したものの素直に喜べることではない。そこまで嫌われる理由も判然としないままだ。 椎名は男達をそそのかす天使の笑顔を浮かべて見せると、力の限り雅を突き飛ばした。 「…っ…!」 衝撃が背中を襲い、息が詰まった。下駄箱に身体を打ち付け、耳元で鳴る金属特有の高い音がこだまし低く呻く。 「これはお返し。伊藤を叩いた分の」 背後を襲う鋭い痛みに顔をしかめる雅は、涼やかな椎名の声音を遠くに聞いていた。 「僕のものに手を出したら容赦しないよ」 脅すように椎名が低く告げると、愉悦に浸る伊藤達が笑い声を上げた。 嘲笑も含んだそれに雅は腹立たしさを覚える。先に手を出したのは事実なだけに、反論できないのが苛立ちに拍車をかけた。 椎名はそんな雅を前に満足げに小さく笑い、最後にと軽やかに告げた。 「よく覚えておいてね」 表面だけは可愛らしさを保ったまま、用は済んだとばかりに椎名が去っていく。 一人取り残されたそこで、雅は取り巻きを連れた背を射るように見送り、ゆっくりと下駄箱から身体を離した。 まだ所々背後が痛む。 「くそっ…」 しかし怒りに紛れ、それもすぐに忘れてしまった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |